二度目の結婚は、溺愛から始まる
「……れ、んっ」
ぐいぐいと力任せに引きずられ、パーキングまで辿り着いたところで、蓮はぴたりと足を止めた。
「俺は、椿が言うことを信じる。……アイツとは、何もなかったと言ってくれ」
(やっぱり……見ていたの?)
きちんと蓮に説明しなくてはと焦り、俯くその口を手で覆い、昨夜の「キス未遂」を実演してみせた。
「……て、ない……ス、して、ないっ! 梛、キすは、てっ! ……手に、したのっ」
蓮は、驚いた様子で目を見開いたが、優しくわたしの手を引き剥がすと手のひらにキスを落とした。
「本当にアイツとキスしたなら、椿は隠し切れないだろうとわかっていた。わかっていて……嫉妬した」
「……め、なさい……まぎらわ、しいこと……」
わたしに、梛とどうこうなる気持ちは微塵もなかったけれど、隙があったからあんなことになった。梛が、実際に「ナンパ男」だったなら、強引に押し切られていたかもしれない。
密室に近いタクシーの中で、梛を挑発するような真似をしたのは、わたしの落ち度だった。
「椿のせいじゃない。俺の問題だ。自分でも、どうかしていると思う。挨拶だろうが、コミュニケーションの一部だろうが、椿にほかの男が触れることすら、許せない。たとえ単なる友人だろうと、ほかの男のことを考えてほしくない。椿の全部を……俺だけのものにしたいんだ」
「…………」
「束縛じゃなく……監禁したいのかもしれない」
(な、何気に……すごい告白をされている……?)
何と応えていいのかわからず、苦い笑みを浮かべる蓮を見上げていたら、鈍い振動音が聞こえてきた。
「……でん、わ?」
鳴りやまない様子からして、メッセージではなく電話だ。
こんな時間帯に架けて来るのは、よほどの用事がある人間に限られる。
顔をしかめ、パンツの後ろポケットからスマホを取り出した蓮は、溜息を吐いて架けて来た相手の名を呟いた。
「柾だ」
「でた、ほう……いい」
「そうだな。出るまで諦めないだろうから」
蓮が画面をタップするなり柾の怒鳴り声が聞こえた。
『さっさと出ろっ!』
「……こっちにも都合というものがあるんだよ。何の用だ? 柾。……ん、ああ……一緒にいるが……」
ちらりとわたしに目を向けた蓮の様子に、柾の用事というのはおそらく梛と彼女を会わせる件だろうと思う。
蓮の表情は話が進むにつれ、どんどん険しくなっていき、電話を切る頃には仏頂面になっていた。
「ま、さき……なんて?」
「霧島 梛をおびき出す作戦とやらを聞かされた。椿からの報告を待っていると言っていたが……デートの約束を取り付けたのか?」
不機嫌丸出しの声で問い詰められ、頷く。
「……う、ん」
「いつ、どこに行く気だ?」
「あし、た……まだ、決め……ない。あとで、連絡する……」
蓮は苛立ちを治めるように「ふうっ」と大きく息を吐き、有無を言わせぬ口調で宣言した。
「まだ決めていないなら、待ち合わせの時間と場所は、俺が決める」