二度目の結婚は、溺愛から始まる
結婚式というもの
火曜日の昼さがり。
出勤ラッシュでもない時間帯に、通りを走る「大人」の姿は目立つのだろう。
すれちがう人たちの驚きの視線に、羞恥心を刺激されながら、心の中で叫ぶ。
(もうっ! どうしていっつも遅刻しちゃうのっ!?)
待ち合わせの十五分も前に電車は駅に着いていたのに、出る改札口をまちがえたため、ぐるりと遠回りする羽目になってしまった。
待たせている相手は人使いの荒い腹黒の後輩――蒼とはいえ、遅刻するなんて社会人としてあるまじきことだ。
ぜえぜえと息を切らしながら駅前に設けられた乗降用スペースを見渡し、キュートでポップな車からはみ出している紅茶色の頭を見つけた。
「椿せんぱーいっ! こっちだよ!」
慌てて駆け寄り、助手席に乗り込む。
「ご、ごめん、蒼っ! 改札、逆側に出ちゃって……」
「うん。先輩って方向音痴だから、たぶんそんなことだろうなーって思ってた」
「……え?」
三十年生きてきて、初めて指摘される事実に驚く。
「まさか、いままで自覚してなかったの?」
「は、はい……」
「紙の地図はくるくる回すし、地図アプリを見ても迷う。カーナビとかもダメでしょ? 重症だよ」
「そ、そうなの?」
「うん」
まったくそんなことは思っていなかったので、かなりのショックだ。
蒼は、ひとり落ち込むわたしをよそに、スムーズに車を発進させ、駅を離れて車通りの多い道路へ出る。
「それはともかく……先輩が送ってくれたCGを見た紅、すっごく感激してたよ! 俺も紅も、修正したいところなんてないんだけど、紅がどうしても直接椿先輩にお礼したいって言うから、来てもらうことにしたんだ」
「そう。気に入ってくれたなら、よかった」
先週のうちに、梛が完成させてくれた結婚式会場のCGを蒼宛に送ってあった。
今日は、紅さんを交えて細かい修正点や確認事項を詰めるため、蒼の家にお邪魔することになっている。
現在、蒼は紅さんの出産育児を完全サポートするために在宅で仕事をしているらしく、こうしてわたしを駅まで迎えに来てくれたのだ。