二度目の結婚は、溺愛から始まる
わたしが枕を投げつけると、蓮は笑いながら受け止めた。
「バスルームに、洗濯した着替えを置いてある。下着も乾いているはずだ」
(恋人に下着を洗濯させる、わたしって……)
蓮がこれまで付き合った女性たちは、きっとそんなことなどさせなかっただろう。
(いつか、挽回できる日が来ると思いたい……)
情けなさと恥ずかしさでいっぱいのままシャワーを終え、バスルームを出ると、香ばしい匂いがした。
ダイニングテーブルに、色鮮やかなサラダやオレンジ、ヨーグルト、トーストしたフランスパンが並んでいる。
「コーヒーメーカーを使ったから、味は保証しない」
大きなマグカップには、カフェオレがなみなみと入っていた。
「いまどきのコーヒーメーカーは、優秀よ?」
「椿が淹れるコーヒーには敵わない」
「…………」
普段なら軽口の一つも叩くところだけれど、頬が熱くなる。
蓮は、そんなわたしを見てくすりと笑った。
「チョコレートスプレッドもあるぞ」
椅子に座るなり差し出されたのは、わたしが大好きな某有名チョコレートブランドの瓶。実に、至れり尽くせりだ。
「なあ、椿……」
どう頑張っても「大人の女」にはなれない自分を自覚しながら、頬を緩ませ、たっぷりチョコレートスプレッドを塗ったフランスパンに思い切りかぶりついた時、蓮がとんでもない言葉を発した。
「……結婚するか」
「うぐぅっ」
フランスパンのかけらが喉に突き刺さり、激しくむせた。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょ……いま、結婚って言った……?」
「ああ」
「冗談?」
「冗談にしたいのか?」
慌てて、首を振る。
「返事は?」
跪いて愛と指輪を捧げられる……なんていう、夢見たプロポーズとは程遠かった。
どうして蓮は、突然そんなことを言い出したのか。
まったくわからないけれど、わたしの返事は一つしかない。
「する」
「よく考えなくていいのか?」
「蓮はどうなのよ? よく考えたの?」