二度目の結婚は、溺愛から始まる
「ああ。さんざん考えた。好みのタイプではないのに気になって仕方ないのは、危なっかしくて放っておけないからじゃないか、とか。生意気なお嬢さまと付き合っていける忍耐力が自分にあるだろうか、とか。そのうち、言うことをきかないことに腹を立てて、首輪をつけて繋ぎたくなるんじゃないか、とか。さまざまな角度から検討したよ……」
そう語る蓮は、遠い目をしていた。
「…………」
「せめてカフェが軌道に乗るまでは、手を出さずにおこうと思っていたのに……おまえが台無しにしてくれた」
「ねえ……ちっともわたしと結婚したいように聞こえないんだけど?」
プロポーズを素直に喜べないのは、わたしが天邪鬼だから……ではないはずだ。
「したい、したくないの問題じゃない。しなきゃならないんだ」
やけに真剣な表情で言われ、余計に信用できなくなる。
「それは、わたしが処女だったから? 義務なの? ねえ、いまどき処女を抱いたら結婚しなきゃいけないなんてことはないと思うけれど?」
「そういうわけじゃない。椿と結婚しなければ、息抜きどころか、息の仕方もわからなくなるからだ」
「つまり……どういうこと? さっぱりわからないんだけど」
まわりくどいと苛立つわたしに、蓮は肩を竦めてあっさり答えを教えてくれた。
「つまり、椿がいないと生きていけない」
心臓が止まりかけた。
(この人はっ……わたしを殺す気っ!?)
「…………どうして、いまなのよ」
「処女をもらう前に、言うべきだったか?」
「テーブルが邪魔で、抱きつけないじゃない」
「しつけの行き届いた犬は、飛びついたりしないものだ」
「蓮っ!」
涼しい顔でカフェオレを飲む蓮に、手にしていたフランスパンを投げつけた。
蓮は器用にそれを受け止め、一口で平らげてから、わたしにむかって偉そうにお説教する。
「食べ物を粗末にするんじゃない」
(この人はっ……!)
「蓮は、わたしのこと……好きだから、プロポーズしたの?」
理想とかけ離れたプロポーズでも、せめて愛の言葉くらいはほしかった。
一生に一度くらい、真正面から愛の告白をされてみたかった。
それなのに、意地悪な蓮はまともに取り合ってくれない。
「愚問だろ」
「ねえ、好きなの?」
「好きじゃない」
「…………」
まさかの答えに愕然とする。
蓮はゆっくりと立ち上がり、驚きとショック、その他いろんな感情に振り回されて、泣き出したわたしを抱き上げた。