二度目の結婚は、溺愛から始まる
素直になれないプロポーズ


*****



「椿っ! 大丈……っ!」


電話で話してから、十五分後。

駆けつけた蓮は、鍵の掛かっていない梛の部屋に入って来るなり、ソファーにいるわたしたちを目にして固まった。


「おまえっ!」


怒りの形相で、梛を引き剥がそうとする蓮を慌てて止める。


「シーッ! 起こさないでっ!」 

「椿、何を言って……」

「寝てるだけだから」

「寝てるだけ? 抱きしめてるだろうがっ!」

「ロクに寝ていないんだと思うの」

「だからどうした。窓から放り投げてやる」


真顔で言う蓮は、本気だ。


「酔ってたんだと思うし、と、とりあえず退かして、ベッドまで運んでほしいんだけど」

「床で十分だろ」

「でも、その、ちょっと片付けたいし」

「…………」


苛立ち交じりに溜息を吐いた蓮は、梛を軽々と担ぎ上げ、ベッドへ放り投げた。
乱暴な扱いでも、梛は起きる気配もなく、熟睡している。


(あれで起きないなら、遠慮なく突き落とせばよかった……)

「忙しいのに、呼びつけてごめんなさい。ありがとう、蓮」


ようやく自由を取り戻してソファーから立ち上がり、さっそく窓を開け放つ。
蓮は、そんなわたしを見下ろし、お説教を始めた。


「椿。ひとり暮らしの男の部屋に上がり込むなんて、無防備すぎる。襲ってくれと言っているようなものだろうがっ!」

「で、でも、緊急事態だったから……」

「椿にそのつもりがまったくなくても、相手も同じとは限らない。男の中には、欲求を解消するためだけに、女を抱くヤツもいるんだっ!」

「ご、ごめんなさい……」

「何もされていないだろうなっ!?」

「う、うん……」


梛がわたしに仕掛けたことが、「何かされた」うちに入るのか微妙なところだ。


(でも、キス……ではないし、言ってみれば……犬に舐められたようなものだし……)


無意識に首筋を撫でていたらしい。
そんなわたしの仕草を見た蓮が、すっと目を細めた。


「椿……?」

「な、なにっ!?」


やましいことなど何もないのに、ギクリとしてしまう。


「……あのヤロウ……タダじゃおかない」

「え?」

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