二度目の結婚は、溺愛から始まる
意外なほど強い力で引き止めた彼女は、真摯なまなざしでわたしを見つめて懇願した。
「お時間があるようでしたら……いえ、お時間がなくても、一緒にいてくれませんか?」
「……はい?」
「梛と二人きりだと上手く話せる気がしないんです。わたしも梛も短気だから、つい売り言葉に買い言葉になって……。日曜日も、せっかく椿さんが骨を折って梛と会わせてくださったのに、病気のことや離婚のことで言い合いになってしまって、結婚についてきちんと話せなかったんです」
勘違いではあっても、梛の恋人だと思ったわたしを追いかけ、面と向かって愛人公認宣言をしてしまうくらいだ。
西園寺 花梨という人は、行動力もあれば、舌もよく回る。
梛に言われっぱなしで、大人しく引き下がりはしないだろうと想像がつく。
しかし……。
「でも……わたしと梛はそもそも友人と言えるような仲でもないですし、わたしがいたらかえって素直になれないのでは……?」
「梛は、いつだって素直ではありませんから。むしろ、第三者がいてくれたほうが、冷静に話せると思うんです」
確かに、二人きりになったからと言って、梛がいきなり素直になれるとも思えない。
けれど、やはり他人に聞かれている状態で、包み隠さず本音を言えるかとなると……。
(わたしなら、無理だわ)
ところが、わたしが断りを口にするより先に、蓮が承諾してしまった。
「見守るくらいしかできませんが、同席しましょう」
「れ、蓮っ!?」
どういうつもりだと詰め寄るわたしに、蓮は肩を竦める。
「あとで個別に話を聞くよりは、その方が手っ取り早いだろう?」
「そ、それはそうだけど、でも……」
「知人以上友人未満だからこそ、できる役回りもあるはずだ」
プライドや羞恥心、遠慮。
そんなものが邪魔をして、親しい人には言えないことが、見ず知らずの人になら言える。
通りすがりの人やそれほど親しくない人が差し伸べてくれた手なら、取れる。
そんなこともあるのだと言う蓮の言葉に、反論できなかった。
「……わかったわ」
「ありがとうございます」
彼女は、わたしたちが立ち会うと聞いてほっとしたようだが、その表情は硬い。
「あの……コーヒーか紅茶、もしくはミネラルウォーターしかないんですけれど……何か飲みませんか?」
少しでも緊張を和らげたいと提案したのは、彼女のためというより自分のためだ。
「どうぞおかまいなく」
「ついでですから。わたしと蓮も、ちょうどコーヒーを飲みたいと思っていたところなんです」
「では……もしご面倒でないのなら、いただきます」
「インスタントですけれど。ブラックで?」
「はい」
お湯を沸かし、三人分のコーヒーを用意する。
(うーん……ものすごく、高級そうに見えるわね)
ごく普通のインスタントコーヒーを何かの景品と思われるマグカップで飲む姿さえ、「西園寺 花梨」にかかるとCMのように美しい。
天候、ニュース、株価など、蓮と当たり障りのない世間話をしている彼女に見惚れていたら、シャワーを終え、髭を剃って「人間らしく」なった梛が現れた。