二度目の結婚は、溺愛から始まる
「こんにちは、椿さん。とってもすてきな会場ですね?」
「ありがとうございます」
「準備するのは、大変だったのでは?」
「わたしはデザインして、配置を指示しただけで……。昨日の雨のせいで、ちょっとバタバタしたけれど、みんなが手伝ってくれて、どうにか間に合いました」
花梨は、酔っ払って大きな笑い声をあげている集団を見遣り、くすりと笑う。
「始まる前から、楽しそうね。ところで、椿さんも準備は万端かしら?」
「えっ……ええと、まあ……それなりに」
約ひと月弱。
毎日練習に励んだ結果、梛が考えたフレアの構成で必要とされる技はこなせるようになったが、自信たっぷりとまではいかない。
その上、梛には内緒のサプライズ企画まで加わって、プレッシャーは増すばかりだ。
ほんの三日前。
蒼が、梛と花梨の結婚をお祝いしたいと言い出した。
どこからか、二人が入籍したこと、結婚式もパーティーもしない予定であることを聞きつけたらしい。
大がかりなことをすれば梛が嫌がるだろうから、乾杯のタイミングで梛と花梨が入籍したことを発表し、みんなにお祝いしてもらおうというのだ。
とてもいい思いつきだし、わたしだって梛たちをお祝いしたい。
問題は……フレアを成功させるのが大前提、ということだ。
不機嫌顔の新郎なんて、最悪。
絶対に、失敗できない。
(蒼め……どうしてどんどんハードルを高くするのよ……)
ここまで無茶ぶりされると、蓮に対する鬱憤をわたしで晴らしているのでは、と疑いたくなってくる。
「椿? 何ぼーっとしてんだ。失敗するなんてありえねぇからなっ! いざとなったら、椿じゃなくソイツにやらせるぞ?」
梛は、わたしを脅しつつ蓮を顎で示した。
優しい言葉なんて、その口からは永遠に出てこないだろう。