二度目の結婚は、溺愛から始まる
たったいま、わたしの頬に押し当てられた蓮の唇には、意地の悪い笑みが浮かんでいる。
「こ、こ、こんなところで、なんてことするのよっ!?」
「リラックスするには、足りなかったか。それなら、唇に……」
「し、しなくていいっ!」
「遠慮はいらない」
「遠慮なんかしてないわっ!」
「そうか?」
「蓮っ!」
うろたえ、喚くわたしの横で、梛が舌打ちした。
「こんな時にイチャついていられるとは、ずいぶん余裕だな? 椿」
「羨ましいなら、おまえも彼女にしてもらったらどうだ?」
「喜んでするわよ? 梛。でも……わたしは、するよりもされるほうが好きだけれど」
蓮の言葉に花梨も便乗し、顔を上向けてキスを誘う。
梛は、そんな彼女から顔を背けて毒づいた。
「んな恥ずかしい真似、誰がするかっ!」
「じゃあ、ごほうびのキスがいいの?」
「それもいらねぇ」
「素直じゃないわね」
「こっちは忙しいんだっ! ジャレついてる暇はねぇんだよっ! さっさと行けっ!」
「わかりました。仕事の邪魔はしません。行きましょうか、雪柳さん」
「二人のフレアがよく見えるように、最前列を陣取ろう」
「ええ、そうしましょ。頑張ってね? 二人とも」
くすくす笑いながら、蓮と連れ立って去って行く花梨を見送る梛の表情は、この上なく苦い。
「恥ずかしがらずに、梛もしてもらえばよかったのに?」
「おまえらとちがって、俺は『バカップル』になる気はねぇんだよっ! いい年して、人前でイチャつきやがって」
「ば、バカって……イチャついてなんてないわっ! それに……年は関係ないでしょ……」
「んなこと言ってるから、いつまで経っても子ども扱いされるんだよ」
「梛に言われたくないんだけど」
「俺は、おまえより遥かに大人だ。分別もあるし、心も広い」
「はい? 心が広い? どこが?」
「そうでなきゃ、足手まといでしかないおまえと組んで、フレアなんてやるかってんだ」
バカにしたように笑う梛に、むっとする。
(やっぱり、こんなヤツのこと師匠だなんて、呼びたくないっ! 絶対に……絶対に、スゴイって、おまえもやるなって、言わせてみせるっ!)