二度目の結婚は、溺愛から始まる


「白崎に噛みつかれるから、礼を言うのはやめてくれ」

「俺だって、感謝すべき時はちゃんと感謝できるよっ! ありがとーございました、ぶちょー」

「ちょっと、蒼っ! すみません……部長」


むきになって蒼は礼を言うが、まるで心がこもっていない。
紅さんに叱られても、そっぽを向いている。


「想定内だから気にするな、黒田。椿、そろそろ引きあげても大丈夫か?」

「うん。蒼、紅さん……改めて、結婚おめでとうございます。今回、お手伝いさせてもらえて、いろいろと勉強になったし、すごく楽しかったわ」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「ありがと、椿先輩。どう? 先輩も結婚式、したくなったでしょ? 俺たちのこと、すっごく羨ましそうに見てたもんね?」


にんまり笑う蒼は、腹黒さ全開だ。


「あ、あれはっ…………」

「先輩のウエディングドレス、俺が作ってあげてもいーよ? ぶちょーの趣味じゃなく、俺の趣味でね?」

「蒼、やめなさいっ! あの、すみません、椿さん、部長。お二人の結婚式は、もちろんお手伝いさせていただきたいですけれど、蒼の戯言は気にしないでください」


紅さんがすかさずフォローするが、蒼はやめない。


「戯言じゃないよ。本気だよ! 俺のほうが先輩との付き合い長いんだ。先輩の好みもよーく知ってるし」

「いいから、もう黙ってっ!」

「あ、相手はぶちょーじゃなくてもいいからね? 先輩」

「…………」


そっと見上げた蓮の横顔は……


(お、怒ってる……)

「わ、わたしたち、もう帰るわねっ! 蓮も疲れたでしょうっ!? じゃあね、蒼、紅さん!」


慌てて蓮の腕を掴んで歩き出す。


(なんで、なんであんなこと言うのよ、蒼のバカっ! わたしじゃなくたって、あんな幸せそうな花婿と花嫁を見たら、結婚したくなるわよっ! たとえわたしが涎垂らしそうなほど、羨ましそうな顔をしてたとしても、黙っておくべきでしょうっ!?)


駅へ向かう道を歩きながら、心の中で叫ぶ。


「椿」

(それに、相手は蓮じゃなくてもいいだなんて……蓮以外と結婚するはずないじゃないっ!)

「おい、椿」

「何っ!?」


八つ当たりとわかっていながら、ギッと蓮を睨みあげる。

蓮は片方の眉を引き上げ、わたしを問い質す。


「いったい、どこへ行くつもりだ?」

「駅よ」

「駅?」

「蓮だって、車じゃないでしょう?」

「それはそうだが……」


ピタリと足を止めた蓮は、真面目な顔で重大な事実を告げた。


「方向が、逆だ」

「…………」


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