二度目の結婚は、溺愛から始まる
部屋へ入っても、蓮は百合香からのはがきについて、触れなかった。
いつもそうしているように、仕事部屋へ持って行き、それきりだ。
(気を、遣わせてる……)
蓮が何も言わないのは、後ろめたいからだとは思わなかった。
変にごまかそうとせず、あの場で話題にしてしまえばよかったと後悔しても、もう遅い。
蓮が切り出すのを待つという選択肢もあったが、モヤモヤしたものを抱えたまま、毎日顔を合わせるなんて拷問に、耐えられそうもなかった。
(いずれは、と思っていたし……ちょうどいいタイミングだったのかもしれない)
バスルームを譲ろうとする蓮に「先に使って」とお願いし、柾にメッセージを送った。
『橘 百合香と異母妹に会いたい。依頼した弁護士に連絡を取りたい』
(このままじゃ……蓮を幸せにできない)
そう思った。
喪ったものを悼む気持ちは、共有できた。
でも、それだけでは蓮の罪悪感はなくならない。
結婚しても、きっとなくならない。
蓮がわたしと結婚する理由に、「償い」はひとかけらもほしくない。
柾からは、すぐに折り返しの電話が架かって来た。
『椿! どうして急に会いたいなんて言い出したんだ?』
前置きもなく、いきなり本題に入るせっかちな兄に呆れる。
「どうしてって、いろいろ考えたからよ」
『いろいろ? 具体的に言えっ!』
曖昧な答えでは納得しそうもない。
この先、蓮に内緒で事を進めるには、兄の協力が必要不可欠だ。
思い切って、打ち明けることにした。
「このまま結婚しても、きっと上手くいかないからよ」