二度目の結婚は、溺愛から始まる
「F県なら、日帰りかな?」
「いえ。わたしの運転だとどれくらい時間がかかるかわからないし、せっかくだから一泊しようかと思って」
何かあったとしても、一晩寝れば、多少は落ち着くだろう。
現在のわたしの運転技術では日帰りなんて無理だし、彼女たちに会ったあと、私も蓮も長距離を運転できる精神状態かどうか、わからない。
「それなら、オススメの温泉宿があるよ。少々お高いけど、泉質も料理もすごくいいんだ。俺と奥さんも、年に一度は泊まりに行くんだよね」
征二さんは、せっかく泊まるならビジネスホテルでは味気ないだろうと、オススメの温泉宿を紹介してくれた。
スマホで見る純和風の館内の様子を写した画像は、溜息が出るほど美しい。
磨き抜かれた床や柱、骨董の家具が美しい部屋は、どれも二間続き。ベッドか布団を選べるようだ。
どの部屋の窓からも、広い日本庭園が一望でき、茶室でお茶をいただくこともできる。
温泉は源泉かけ流しで、大浴場の内湯には檜と思われる大きな浴槽が設えられ、露天は岩風呂だ。
「すてき……」
「内装も、椿ちゃんが好きそうな感じだと思うよ」
わたしと蓮は、新婚旅行どころか、近隣への一泊二日の旅行さえしたことがない。
温泉宿で、おいしい和食と日本酒を楽しみ、ゆっくりのんびりするのもいいかもしれないと思った。
「さっそく予約してみます!」
「うん。ぜひ感想きかせて。それはそうと……来月の予定はどうなの?」
「来月……?」
意味がわからず問い返すと、征二さんはにやりと笑う。
「そろそろ、結婚式するんじゃないかなって思ってたんだけど? ホテルや式場を押さえるのは難しくても、レストランウエディングなら何とかなると思うよ。困ったことがあれば、相談して?」
「け、結婚っ!? そ、そんな、あの、まだ、何も……あのう……どうしてそう思ったんですか? 征二さん」
兄以外には蓮との再婚を考えていることは言っていないし、実際プロポーズもまだだ。
これまでと何ら変わらない日々を送っていたはずなのに……どうして征二さんが感づいたのか、謎だった。