二度目の結婚は、溺愛から始まる
「そうだねぇ……」
征二さんはじっとわたしの顔を見つめて、ひと言。
「……顔つき、かな」
「顔つき……?」
「うん。なんか、いまの椿ちゃん、昔の京子――俺の奥さんを思わせるんだよね」
「征二さんの奥さん、ですか?」
意外な人物の名前を持ち出され、首を傾げる。
簡単に切り上げられる話ではないと思ったのか、征二さんはわたしの向かいの椅子を引いて、腰を下ろした。
「椿ちゃんには、言ったことなかったと思うけど……俺と京子は、姉弟だったんだ」
「え」
唐突に聞かされる、征二さんと奥さんの関係に驚き、戸惑った。
「それって……」
「あ、血は繋がってないから! 親が再婚で、連れ子同士だったんだ。むこうが高校生、俺が中学生の時に再婚してね。お互い微妙な年頃だったし……どうしても『姉』と『弟』という関係を受け入れられなくて、かなり悶々とした日々を送ってたよ」
「…………」
「親が再婚だからさ。新しくできた『家族』を壊してはいけないと思って、長い間、二人とも自分の気持ちをごまかしてた」
血が繋がっていなくても「家族」は「家族」だ。
たとえ本人同士はよくても、周囲の目がそれを許さないこともある。
「京子は、高校を卒業すると同時に家を出て、俺も高校を卒業してすぐに海外へ出た。丸三年、一度も顔を合わせずに過ごして、もういい加減に吹っ切れているはずだと思って帰国したんだけれど……ちょうどその頃、京子が結婚を考えていた男と別れてね。ヤケ酒に付き合わされて、ノロケにしか聞こえない愚痴を聞かされて、他の男を思って泣きじゃくる姿を見せつけられて……理性が吹っ飛んだ」
「それって……」
目で問うわたしに、征二さんは自嘲の笑みを浮かべて頷く。
「お互い相当に酔ってたけど、何をしているかわからないほどではなかった。翌朝になって、酔いが醒めた京子は、全部なかったことにしたいと言ったんだけど……そんなのごめんだったから、そのままもう一度押し倒して、さんざん啼かせて、堕としたよ」
(お、おと、堕としたって……)
「引いた? でも、片思い歴長かったからねぇ。若かったし、一回や二回じゃ満足できなかったんだよね」
唖然とするわたしに、征二さんは肩を竦めて見せた。
「それ以来、会えばヤるセフレみたいな関係になった。でも、京子が普通の幸せ――結婚して、子どもを産んで、家庭を築いて……そういう幸せを望むなら、いつでも身を引こうと思っていた。プロポーズなんて、できなかったし、してはいけないと思っていた」
幸せの形は千差万別。
本人たちがいいなら、どんな形でもかまわないはずなのに、社会という枠の中では見慣れぬ形が「正しくない」「おかしい」とされ、差別されることも珍しくない。