二度目の結婚は、溺愛から始まる
「辛かった……ですよね。征二さんも、奥さんも」
「俺は、京子が傍にいてさえくれれば幸せだし、満足だったよ。でも、京子は悩んでいたね。だから……京子から『一緒に住みたい』と言われた時は、ものすごく嬉しかった。何があっても、この先ずっと俺と在り続ける。ふたりで幸せになる。そう覚悟を決めてくれたことが、本当に嬉しかった」
そこに至るまでの奥さんや征二さんの葛藤や苦しみを思うと、胸が痛んだ。
相手の未来や再婚したご両親のこと。関係を秘密にし続けなくてはいけない不安とリスク。いろんなことを考え、思い悩んだはずだ。
それでも、一緒に生きていくと決めたのは、それだけお互いを思う強い気持ちがあったから。
「結婚できなくてもいい、子どもを産めなくてもいい。生涯パートナーとしてずっと傍にいてくれればいい。世間や親に嘘は吐いても、自分の気持ちに嘘は吐きたくない。そう言った京子は、凛としていて……すごく綺麗だった。惚れ直したね」
「ノロケですか?」
「そう、ノロケ。で、回りくどくなっちゃったけど、その時の京子の顔といまの椿ちゃんの顔が、似ているんだよね」
「はい? 似てる? まさかっ! 冗談はやめてください、征二さん。土台がぜんっぜん、ちがいますからっ!」
退院した後、お見舞いと征二さんを手伝ってくれたことへのお礼を言いたいからと、お店まで来てくれた奥さんは、ものすごく美人だった。
高級クラブで、何年もの間ナンバーワンホステスだったというのも納得の、色っぽくて、女らしくて、それでいてかわいらしい雰囲気のある人。
わたしなんかが、似ているはずがない。
「冗談なんかじゃなく、椿ちゃんは『イイ女』だよ」
「そんなわけ、ないです……」
「大丈夫。椿ちゃんは、愛されてるし……ちゃんと、愛せているよ。椿ちゃんとなら、雪柳さんは絶対に幸せになれる。自信もって」
「…………」
理由もなく涙が込み上げ、慌てて目を瞬いた。
征二さんは、箱ティッシュを差し出しながら、大げさな仕草で左右を確かめ、声を潜める。
「頑張ってる椿ちゃんに、いいこと教えてあげる」
「いい、こと……?」
「このお店を作る時、雪柳さんにお世話になったのは本当なんだけど……頻繁にお店に来てくれるようになったのは、椿ちゃんが昼のシフトに入るようになってからなんだよね」
「……は?」
「しかも、椿ちゃんがいないと十五分もせずに帰るし」
「…………」
「あんまりにもじれったくて、お節介しちゃった」
「あ、の……」
征二さんは、蒼とよく似た腹黒い笑みを浮かべてわたしの耳に囁いた。
「先に好きになったのは、雪柳さんのほうだと思うよ? ここぞという時に、訊いてごらん。きっと、珍しい姿が見られるから……」