二度目の結婚は、溺愛から始まる
蒼は、わたしの三つ下。
わたしが四年生の時に入学してきた後輩だ。
印象的な紅茶色の髮と甘い顔立ちで乙女心をわし掴みにし、才能で教授陣の期待を一身に集める存在だった。
そんな彼とわたしが知り合ったのは、大学構内のコンビニ。
チョコレートを奪い合ったのがきっかけだ。
わたしはコーヒーの次にチョコレートが好きで、蒼はチョコレートと名のつくものなら何でも好き。
棚に残っていた最後の板チョコ一枚に、ほぼ同時に手をのばしたわたしと蒼は、親の仇のように睨み合い、互いのチョコレート愛を熱く主張した結果、半分コにすることで妥協した。
それ以来、新作や話題のチョコレート情報を交換するようになり、大学を卒業した後も何だかんだと繋がりがある。
二年前には、わたしが友人たちと共同経営するカフェ『TSUBAKI』と当時『KOKONOE』のデザイナーをしていた蒼がコラボして期間限定カフェを作った。
蒼は、その後『KOKONOE』を辞めて、大学の先輩が営むデザイン事務所に転職したが、JDAの金賞も受賞したようで、この先一流デザイナーとしてますます有名になるのはまちがいない。
(あの子犬が、結婚ねぇ……)
時が過ぎるのは早いものだ。
しみじみしながら画面をスクロールしたわたしは、目を見開いた。
『椿先輩には、会場のデザインお願いしたいです! 俺のお嫁さんは猫好きなので、猫ちりばめてください。それから、先輩のカプチーノが飲みたいです。ラテアートも猫にしてください』
(は? どんだけコキ使う気なの? っていうか、わたし……デザイナーじゃないんだけど?)
大学時代、空間デザインを専攻していたものの、実際にプロのデザイナーとして仕事を請け負ったことなどない。
器用な蒼は、さまざまなデザインをこなすし、空間デザインだってできるだろう。
(なぜ、わたしに頼むのよ……)
と怪訝に思っていたら、メールにはさらに続きがあった。
『お嫁さんのお世話で忙しいので、自分ではデザインも準備もできそうにありません』
(要するに……ラブラブかっ!)
思わずスマホを海に投げ捨てたくなったが、深呼吸して気持ちを落ち着ける。
(蒼め。何を企んでいるのよ?)
蒼が、たいした実績もなく、ブランクありまくりのわたしに依頼してきたのは、単なる思い付きとは考えられない。