二度目の結婚は、溺愛から始まる
降っても、晴れても
(あ、晴れた)
窓の外を見ると、先ほどまで降っていた雨は止んでいた。
雲間から差し込む陽光に目を細める。
(ガーデンウエディングじゃないから、さほど影響はないだろうけれど……)
『結婚式で雨が降るのは縁起がいい』
どこかの国に、そんな言い伝えがあったような気がするが、ゲストのことを思えば、雨よりも晴れのほうがいい。
「椿! 準備できてる?」
ノックと共に入って来たのは、愛華だ。
髪をきっちり夜会巻きにし、パンツスーツ姿の彼女はどこからどう見ても、ウエディングサロンのスタッフにしか見えない。
「んー、お化粧と髪は、さっきスタイリストさんがしてくれたわ」
「イイ感じって……ちょっと、椿! なんで下着姿のままなのよっ!」
「え。だって、汚すと困るし……蒼のデザインしたドレスがいくらするか知ってるでしょ?」
「知ってるけれど、汚すような何をするつもりよ? いったい……。ほら、早く着てっ!」
愛華に叱られ、トルソに着せていたオフホワイトのウエディングドレスに袖を通す。
歩き回りやすいように、裾の広がりはなく、トレーンもなし。
ごくシンプルなデザインだけれど繊細なレースや細かくちりばめられたスワロフスキーが美しい。
先月立ち上げたばかりの蒼のブランドは、まだ知名度が低い。
そこで、知り合いや友人にモデルとなってもらい、SNSやブログなどで発信することにしたらしいが……
(どうしてわたしがモデルにならなきゃいけないわけ?)
「ほらっ! 蒼のモデル第一号なんだから、気合入れてっ!」
「わたしなんかより、紅さんのほうがいいと思うんだけど……」
「蒼が、紅さんをほかの男の目にさらすわけないでしょ? それに、椿のほうが身長もあるし、凹凸ないモデル体型で何でも着こなせるし、雪柳さんは心広いしね」
「ねえ……何気に貶してる?」
「褒めてるわよ。わたしじゃ、ぜったいにそのタイプのドレスは着こなせないもの」
「でもわたし、和装がよかったんだけど。蓮は、着物のほうが似合うもの」
「同感。でも、椿は着物よりドレスが似合う。式は神前にしたんでしょ? 椿が袴姿の蓮さんを堪能したんだから、今度はドレス姿の椿を蓮さんが堪能する。それが平等ってものでしょ?」
「そうだけど……」
テキパキと背中のボタンを留め、ぐるりと一周してわたしの姿を確認した愛華は、インカムで会場にいる涼へ指示を出す。
「うん、もうすぐ出る。ゲストは? ほぼそろってる? だから、ごめんってば。だって、椿が下着姿でくつろいでたのよっ」
(くつろいでないわよ……緊張してたのよ)
口に出しても信じてもらえないだろうから、心の中で言い訳する。