二度目の結婚は、溺愛から始まる
文句を言いながら姿を見せたのは、兄の柾だ。
「柾!」
スーツ姿の兄は、「元気そうだな?」と言い、わたしの頭を軽く叩く。
「せっかくおまえに口をきいてもらったのに、申し訳ないことをしたよ。彼の結婚式には、『KOKONOE』としてもお祝いを贈るが、俺からも別口で包もうと思っている。渡してもらってもいいか? 式には、親しい友人や家族しか招かないと聞いているから」
「もちろん! 蒼が『KOKONOE』を去ったのは残念だけど、あの子は元からいろんなものをデザインしたいって言ってたから。いずれはこうなる運命だったのよ。蒼に悔いはないと思う」
「むこうにはなくとも、俺には大アリだ」
自ら渡英して、かの国でインターンをしていた蒼を口説き落とし、日本へ連れ帰った兄の落胆は、察するに余りある。
「蒼は人との出会いを大事にする子だから、こちらが誠意ある態度で付き合えば、一方的に断ち切ったりしないわ」
「そうであることを願うよ。ところで……さっき、蓮の車とすれ違ったんですが、アイツ、お祖父さまの見舞いに来ていたんですか?」
「いや、空港からここまで、椿を送ってくれたらしい」
「は? どういうことだ? 椿」
「空港で偶然会ったの。それで、親切に送ってくれた。それだけ」
「あいつに、喧嘩を吹っ掛けたりはしなかっただろうな?」
「しないわよ! わたしだって、いい大人なのよ? 当たり障りのない世間話くらいできるわ」
「どうだか。おまえは、いつも蓮に向かって、子犬のようにキャンキャン吠えていたからな。いまも……たいして変わっていないように見える」
「わたし、もう三十なのよっ!? 立派な大人よ!」
「誰でも年を取ることはできる。だが、誰でも成長できるわけじゃない」
「――っ!」
「柾、やめなさい。せっかく椿が、六年ぶりに戻って来たのに。いつまでも、独身で遊び回っているあなたには、夫婦のことなんてわからないでしょう? 偉そうに言わないの」
「…………」
母の一喝で、口うるさい兄はようやく黙った。