二度目の結婚は、溺愛から始まる
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蓮と結婚して三か月が過ぎた頃。
母からランチに誘われた。
先月オープンしたばかりのカフェは、順調に客足を伸ばし、ランチタイムや夕方は混み合うが、スタッフもだいぶ業務に慣れてきて、トラブルが頻発するようなことはなくなっている。
涼と愛華の厚意に甘え、二時間ほど店を抜けることにした。
(あれ? あの車……)
待ち合わせ場所であるレストランに向かう途中、ふと通りの少し先に停まっている車が気になった。
何となく、蓮が乗っている車に似ている気がしたのだ。
(でも、今日は仕事のはずだし……見まちがいよね)
優しい旦那さんが妊婦の妻を送って来たのだろうと微笑ましく思っていたが、運転席から現れた人物を見て、凍り付く。
(……蓮?)
助手席からは、藤色のマタニティドレスを着た女性が現れた。
蓮は、彼女に手を貸して車から降ろすと、建物の入り口まで付き添い、再び車へ引き返して走り去る。
茫然としながら、建物に掲げられている看板を見上げた。
(……レディースクリニック)
大きくせり出した彼女のお腹は、臨月が近いように見えた。
病気のために受診したとは思えない。
どうするかなんて、考えていなかった。
ただ、黙って見なかったフリなどできそうもなかった。
(ただの見まちがいかもしれないし……そう、勘違いかもしれないじゃないの)
その場で母にキャンセルの連絡を入れ、建物の前で彼女が出て来るのを待った。
まさかという気持ちと、もしかしてという気持ちを行ったり来たりしながら、一時間ほど待っただろうか。
自動ドアが開き、藤色のマタニティドレスを着た女性が建物から出てきた。
黒く長い髪を一つに束ねた清楚な感じのする女性は、わたしの姿に気づくとあからさまに青ざめた。
「……椿さん」
会ったことはないはずだと思ったが、次に彼女が発した言葉で、合点がいった。
「あの……社長と奥様の離婚のこと……大変、申し訳ありませんでした」
彼女は、自由にならない身体を折り曲げるようにして頭を下げる。
「少しお話できませんか?」
妊婦に無理はさせられないと思い、クリニックのすぐ横にあるカフェを示した。
「でも……」
「個人的に話したいだけです。それとも……弁護士が必要ですか?」
母は、父との離婚に際して、愛人であった彼女に慰謝料を請求しなかったが、だからと言って「無罪」というわけではない。
逃げられないと観念したのか、彼女は俯きながらも頷いた。
「……わかりました」