二度目の結婚は、溺愛から始まる
百合香は、寂しげな笑みを浮かべた。
「はい。二年ほどですが。忙しい彼とはなかなか会えなくて、寂しかったわたしが彼を裏切ってしまって……別れたんです。顔も見たくないと思われてもしかたないのに、わたしが妊娠していて、次の仕事も見つからないと知って、相談に乗ってくれたんです。忙しい中、病院への送り迎えをしてくれたり、時々様子を見に来てくれたり……。とても優しい人なんです」
バラバラだったものがひとつの線に繋がり、あの夜なぜ蓮が落ち込んでいたのか、腑に落ちた。
蓮は、自分が寂しい思いをさせたから、前の彼女は別の人を選んだと言っていた。
特別な存在の同期とは、百合香だったのだ。
(彼女の様子を見に行っていたってことは、部屋に行ったの? いつ? 帰りが遅かった日? それとも……出張だと言っていた時も、本当は……)
蓮と過ごした日々に、見逃していた違和感を探さずにはいられなかった。
蓮の帰宅が深夜に及ぶことは、日常茶飯事。突発的な出張も多い。
疑おうと思えば、いくらでも疑える。
(もし、彼女とやり直せるチャンスが巡ってきたら、蓮は……どうするだろう?)
「どうかなさいましたか? 椿さん?」
気遣わしげに訊ねられ、笑みを取りつくろう。
「い、いいえ、なんでも……。あの、連絡先を交換してもらえますか? 子どものことで、力になれるかもしれないので」
「そんなっ! ご迷惑はかけられません」
「あなたのためではなく、子どものためです。九重とはもう関わりたくないかもしれませんが、養育費を貰う権利はある。父とあなたのために、わたしの弟か妹が不自由な暮らしを強いられるなんて、認められません」
「でも……」
「女として、父のような男は許せないわ。祖父と兄に相談してみます。悪いことにはならないと思うから、心配しないで」
「すみません……ありがとうございます」
百合香は、涙ぐみながら何度も頭を下げた。
祖父と兄は、父に激怒するだろうが、彼女と子どもを見捨てはしないはずだ。
(でも、蓮には言えない……)
友人であり、父と彼女のことを知る兄にも話していないと思われる以上、わたしからこの話題を持ち出すわけにはいかなかった。
(お父さまを恨むわ……)
苦い気持ちでコーヒーを飲み干した時、再び彼女の携帯が鳴り出した。
ディスプレイを見た彼女は、なぜか気まずそうに表情を曇らせる。
「どうかしたの?」
「迎えに来たみたいなんです……彼」
「え?」
「近くで商談があったついでだからと……。あの、もしかして彼もここへ呼んだ方が?」
「いいえっ!」