二度目の結婚は、溺愛から始まる
置き去りにした過去②


******


「……ただいま」


深夜一時を少し過ぎた真夜中。

そっと玄関の扉を開けたわたしは、小声で帰宅を知らせた。

リビングは暗く、蓮はもう寝ているようだ。

がっかりするよりもほっとして、バスルームへ直行し、熱いシャワーを浴びた。


(はぁ、疲れた。さすがに、十四連勤は……キツイ)


溜まった疲れは洗い流せず、背にのしかかったままだ。
つい、溜息をこぼしてしまう。

バスローブ姿で髪を拭いながら、冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出した時、突然背後から呼ばれた。


「椿」

「ひゃっ」


あやうくペットボトルを取り落としそうになる。


「れ、蓮……」


振り返った先には、仏頂面でTシャツスウェット姿の蓮がいた。


「ご、ごめんなさい。うるさかった?」

「寝ていたわけじゃない。帰って来るのを待っていたんだ。カフェの閉店は、九時のはずだろう? どうして毎晩こんなに遅くなるんだ? 何かトラブルでも?」


いつか訊かれるだろうと思っていたから、用意していた言い訳をスラスラと口にする。


「う、ううん。トラブルじゃないけれど、いろいろと検討したり改善したりすることが、まだまだあるから……。涼や愛華と話しているうちに、気がついたらこんな時間になってるだけよ」


蓮が「彼女」を送り迎えする姿を目撃した日から、今日までの約二週間。

わたしは、早朝の仕込みから深夜の後片付け、メニューの研究など、カフェの仕事を詰め込んでいた。

クタクタになって帰宅して、泥のように眠れば、何も考えずに済む。

蓮は、浮気していない。
困っている人に親切にしているだけだ。

何度そう自分に言い聞かせても、抑えきれない嫉妬に呑み込まれそうだった。

蓮と向き合えば、「彼女」のことを訊かずにはいられなくなる。

訊いてしまえば、蓮の中で「罪悪感」や「同情」だったものが、別のものへ変わってしまうかもしれない。

それが、怖かった。

だから、祖父と兄が「彼女」の今後について適切な対応をするまでは、彼女のことには触れずにいたかった。

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