二度目の結婚は、溺愛から始まる
「オープンしたばかりで必死なのはわかるが、顔色が悪いし……」
蓮は、手を伸ばしてわたしを引き寄せ、腕の中に囲い込む。
「痩せた。ちゃんと食べているのか?」
「食べてる」
広い胸に顔を埋め、背中に手を回してぎゅっと抱きつく。
「次の休みは、いつだ?」
「明日」
「明日の朝は、起きなくていい。ゆっくり寝てろ。夜も、無理して作らなくていい」
「うん」
「髪を乾かして、さっさと寝るぞ」
蓮に手を引かれ、バスルームへ再び戻る。
洗面台のスツールに座らされ、ドライヤーをあてられた。
髪を梳く手が気持ちよくて、強張っていた身体も気持ちも緩む。
蓮は、うつらうつらし始めたわたしを鏡越しに見つめ、苦笑した。
「眠そうだな?」
「ん」
ドライヤーの風が止まり、蓮がわたしの腰を抱いて持ち上げる。
間近に見下ろす蓮の表情に、翳りはない。
愛されているのだと思う。
それでも、拭いきれない不安に押しつぶされそうになるのは、わたしに自信がないせいだ。
蓮との間に横たわる五つの年の差はいつまで経っても埋められないし、いますぐ「大人の女」にはなれそうもない。
彼女とは――百合香とは、正反対のわたしのどこに、蓮が惹かれたのかわからない。
柾から聞いた「橘 百合香」の印象は、「控えめな性格だが、仕事も気遣いもできる大人の女」。社内でも、彼女に憧れている男性社員は多かったらしい。
(蓮は……どうして、わたしと結婚したの? 規格外のお嬢さまが物珍しかった? 処女だったから? それとも……会長の孫だから?)
そんなはずはないと頭ではわかっていても、わかりやすい理由のほうがもっともらしく思えてしまう。
「椿?」
訝しげな顔をする蓮の唇に唇を重ねれば、すぐに応えてくれる。
優しく宥めるようなキスでは満足できず、舌を絡めてほしいと要求したら、くぐもった唸り声が返って来た。
「煽るんじゃない。大人しく寝ろ」
蓮は、無理やり顔を背けてキスを中断すると、わたしを寝室のベッドまで運んだ。