二度目の結婚は、溺愛から始まる

蓮にとって、わたしは初めての恋人ではないし、幾人も元カノがいる。
それでも、大事なのは「いま」で、蓮と結婚したのは「わたし」なのだ。

不安に思う必要などないはずだった。

それなのに、いざ「元カノ」という存在を目の当たりにしたら、そんな余裕は消えてなくなった。

彼女とはいつ、どこで始まって、どれくらい愛していたのか。
どんなキスをしたのか、どんな風に抱き合ったのか。

考えてもしかたのないことが、頭を離れない。


(何も……考えたくない)


胸を焦がす嫉妬も、頭の中から消えない不安も、抱かれれば消えるかもしれないと思った。

ベッドに横たわる蓮を見下ろし、バスローブの紐を解く。


「蓮……」


胸を重ね、引き結ばれた唇にくちづける。


「椿、やめ……」


お説教しようとする口を塞ぐため、無理やり舌を差し入れてみたけれど、蓮は応えず、抱きしめてもくれない。

何の反応も見せない蓮に悔しさが募り、Tシャツの下に潜り込ませた手を上ではなく、下へと滑らせた。


「――っ!」


さすがに無反応ではいられなかったらしく、蓮がわたしの手を押さえる。


「やめろ」

「イヤ」

「疲れてるんだろう?」

「蓮は、したくないの?」


蓮は、返事をする代わりに、わたしを抱いて反転した。


「したくないわけがないだろ。できることなら、一日中、椿をベッドから離したくない」

「じゃあ、そうして?」

「まったく……」


呆れたように溜息を吐いた蓮は、わたしには到底真似できないようなキスをする。

あっという間に何も考えられなくなったわたしは、蓮がくれる熱で不安や焦燥、嫉妬、胸に渦巻くどろどろしたものが溶けて消えるのを感じた。

所詮、一時のこと。
蓮のぬくもりがなくなれば、再びよみがえる。

わかっていても、わたしには束の間の休息が必要だった。

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