二度目の結婚は、溺愛から始まる

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翌朝、蓮が出て行ったことにも気づかずに、熟睡していたわたしを目覚めさせたのは、兄の柾からの電話だった。


「……もしもし、柾?」


目をつぶったまま応答し、前置きもなしに告げられた言葉に飛び起きた。


『橘 百合香の件、片付いたぞ』


それは、この二週間、待ちわびていた言葉だった。


『当面の生活費や出産費用は、お祖父さまが一旦肩代わりをする形で彼女へ渡す。無事出産した後、親父に子どもを認知させ、お祖父さまが肩代わりした費用と養育費を支払わせる。出産後は、F県の実家近くで暮らせるよう部屋も用意した。彼女の両親とも話が着いた。出産までは母親がこちらに来てくれるし、F県に移ってからも協力してくれる』

「そう……よかった」


話を聞いてほっとした。

彼女と子どもが路頭に迷うことはないと安心すると同時に、蓮が彼女と関わる必要もなくなると思った。

蓮が抱いている感情が何であれ、彼女の行く末を心配する必要もなくなり、簡単には会えない距離ができれば、そのうち薄れるはずだ。


(もう、大丈夫……よね?)


うしろめたい気持ちはあるが、誰も不幸にはならないのだから、「まちがったことはしていない」と自分に言い聞かせた。


『それとは別件だが……近いうち、蓮と一緒に顔を出せとお祖父さまが言ってたぞ。結婚式の話を早く進めて、さっさとひ孫を見せろってさ』

「お祖父さまは相変わらずね。蓮と話してみるわ」


柾との電話を終え、大きく息を吐き出した時、スマホに新たなメッセージが届いた。


『ひま? ランチ食べに行かない?』


瑠璃からのランチの誘いだ。

ぐちゃぐちゃ悩むのは今日で終わりにしたかった。

これまでのこと、これからのこと。

誰かひとりに打ち明けるとすれば、相手は瑠璃以外にいなかった。

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