二度目の結婚は、溺愛から始まる
「お父さまとお母さまの離婚のせいで、結婚したくないと考えているわけではありません。わたしは、『いま』結婚したくないだけです」
わたしの両親は、先月離婚している。
原因は、度重なる父の浮気だ。
今度の相手は秘書だったため、祖父にバレて大事になった。
実の息子より嫁である母を可愛がっていた祖父は、父の浮気に激怒し、海外支社へ異動という名の左遷を決めた。
浮気相手の秘書も退職したが、父は彼女の面倒を見る気はなかったようで、ひとりで日本を離れたらしい。
「そんなことを言っているうちに……」
祖父のお小言をご機嫌伺にやって来た男性が遮ってくれた。
「ご無沙汰しております、九重会長」
「今夜は美女と一緒ですか。珍しいですね?」
「おお、山野くんに伊藤くん。これは孫の椿だよ」
「小さい頃に一度お会いしたことがありますが、すっかり大人になられて……」
「こんばんは、九重会長。椿さんがいらしていると伺ったので、ぜひ挨拶を……」
「椿さんは、もう大学を卒業されたのですか?」
「卒業後は『KOKONOE』に? それともすでに永久就職のアテが?」
わたしが祖父の孫だと知れるなり、次から次へひっきりなしに顔も名前もまったく知らない人たちがやって来た。
「婿」探しのために、今夜のパーティーに出席したと思われているようだ。
(もう帰りたい……)
先ほどから握った手を放してくれない男性の話を右から左へ聞き流し、この人が去ったら帰ろうと決めた。
履き慣れないハイヒールで立ちっぱなしの足が痛いし、せっかく美味しいシャンパンがあるのに思い切り飲めないストレスが辛い。
まるで興味のないオペラの話をさんざん聞かされた後、ようやく解放されたわたしは、祖父にひと言断ってからここを出るつもりで振り返り、固まった。
そこにいたのは、百六十五センチはあるわたしが、十センチヒールを履いてもなお見上げる長身の男性。
涼し気な目元が印象的なその人は、わたしが探していた人だった。
「帰って来ていたのか、雪柳くん」
祖父と握手し、にっこり笑う蓮は少し日焼けしたようだ。
「昨日、帰国しました。報告が遅れて申し訳ありません」
「すまんな、ひと月もあちらに行かせっぱなしで」
「とんでもありません。日本を離れるのは、いい気分転換にもなりますし、むこうのスタッフとも密にコミュニケーションを取れました。これからはもう少しスムーズに事が運ぶと思います」