二度目の結婚は、溺愛から始まる
瑠璃と別れ、かかりつけの病院に寄って妊娠が確実となったわたしは、さっそく母子手帳を貰った。
書店にも立ち寄り、妊娠、出産に関する本をかたっぱしから買い求め、カフェインレスのコーヒーも購入。今夜は、ちょっと豪華な晩御飯にしようと思いスーパーにも寄った。
つわりに苦しむ人も多いようだが、幸いなことに、香水などのキツイ人工的な匂い以外は、あまり気にならない。
マンションに帰り着き、カフェインレスのコーヒーを飲みながら、蓮へメッセージを送る。
『今日、何時に帰れそう?』
すぐに返信が来るとは、期待していない。
蓮は、プライベートでの連絡は、よほどのことがない限り、業務時間内にはしないと決めている。
電話やメールで伝えるのが手っ取り早いけれど、できれば顔を見て、直接伝えたかった。
どんな反応が返って来るのか、一抹の不安はあるものの、きっと喜んでくれるはずだ。
妊婦にオススメのレシピで晩御飯の用意を整え、買って来た妊婦向けの本を読みながら、蓮の帰りを待つ。
身近に妊婦がいなかったため、知らなかったこと、注意すべきことがたくさんあり、夢中で本を読んでいるうちに、気づけばかなりの時間が過ぎていた。
(もう七時……)
いつもは、定時を過ぎたら返信してくれるのに、まだ何の連絡もない。
思い切って電話を架けてみたが、社用、プライベート共に電源が入っていないか電波の届かないところにいるというアナウンスが流れる。
(まさか……何かあった?)
不安に駆られ、誰か出てくれることを祈りながら、営業部に電話した。
『KOKONOE株式会社営業部です』
「あの、れ……雪柳さんをお願いできますか」
蓮が社内でどこまで結婚を報告しているかわからなかったので、妻とは名乗らなかった。
対応してくれた男性は、営業時間外にもかかわらず、丁寧な口調でわたしの知らない事実を教えてくれた。
『申し訳ございません。雪柳は本日午後からお休みをいただいておりまして、翌月曜日の出社予定となっております。ご伝言がありましたら承りますが、お急ぎでしたら雪柳からご連絡差し上げましょうか? お名前をお伺い……』
(午後から、休み? 休んで……どこにいるの?)
「い、いえ、結構です。また、架け直します」
混乱しながら、慌てて電話を切った。
スマホを握る手に汗が滲む。
きっとちがう。
休みを取ってまで、彼女と一緒にいるはずがない。
もしそうだとしても、それ相応の理由があるはずだ。
(蓮は、裏切ったりしない。わかっている。信じなくちゃいけない。でも……)
不安に押しつぶされそうで、わたしは車の鍵を手に部屋を出た。