二度目の結婚は、溺愛から始まる

彼女のマンションを訪ねて、どうするかなんて考えていなかった。
ただ、「確かめなくてはいけない」と思った。

百合香の住所をカーナビにセットして、慣れない道を運転するわたしは、気持ちばかりが焦り、何度も道を間違えた。


(もうっ! 三十分もあれば着くはずなのに!)


そんな状態で運転していては、注意散漫になるのも当然だった。

対向車線を走る車が、無理な追い越しをして来たことに気づくのが一瞬遅れ、ハッとした時には、黒いボディのスポーツカーが目の前にいた。


ブレーキを力いっぱい踏む。

正面衝突を避けようと反射的にサイドブレーキを引いてハンドルを切った。

タイヤが軋む音。

横滑りしていく車体。



――目をつぶった直後に襲ってきた衝撃。




薄れていく意識の中、貰ったばかりの母子手帳は、きっと一度も使わずに終わるのだろうと思った。


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