二度目の結婚は、溺愛から始まる
置き去りにした過去③
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「相変わらず、素直じゃないな。椿は」
涼は深々と溜息を吐いて、わたしの頭を撫でた。
堪えていたものが、どっとあふれ出し、止まらなくなる。
「今夜は、とことん飲もうよ? 椿」
もらい泣きしている愛華の言葉に、涼が乗る。
「おう、飲め飲め!」
「うん……飲む……」
「わたし、焼酎にしようかな」
「俺も。椿は?」
おしぼりで目元を拭い、テーブルの上のチャイムをバシッと叩く。
「……生ビール。ピッチャーで」
「はいは……ピッチャー?」
「日本のビールは軽いのよ」
「ワインじゃなくていいのかよ?」
「ワインは水だから」
「……左様ですか」
宣言どおり、わたしはとにかく、飲んだ。
飲まずには、いられなかった。
ビール、焼酎、ワイン、カクテル……メニューを一巡した。
こんな無茶な飲み方をしたのは、学生の時以来だ。
ザルと言われるほどお酒は強いが、そこまで飲めばさすがにシラフではいられない。突然泣いたり笑ったり。完全な酔っ払いだと自覚しながら、愛華のふかふかの胸に頬ずりする。
「どうしてこんなにちがうの? 同じ女なのに。不公平よ!」
「その人に似合う大きさってものがあるんじゃないの?」
「ねえ、大人になったら成長すると思う?」
「いや、もう、十分大人でしょ」
「でも、大人なのに大人扱いされないのよ。いっつも、余裕って顔してて……ムカツク」
ことあるごとに、わたしを子ども扱いしていた人の顔を思い出す。
「余裕あるフリをしてるだけだと思うけどな?」
「手加減してくれてたんだと思うけどね? 椿は、初心だし」
「ちがう……妹みたいなものだったのよ」
「バカ。妹とセックスはしないだろ」
「嫌い……わたしを好きじゃない男は、みんな嫌い!」
「はいはい……相当な酔っ払いね」
「いい加減、帰すか。椿、いまの宿はどこだ? 母親のところか?」
「柾の家」
「電話しろよ。迎えに来てもらえ」
「怒られるから、イヤ」
「おまえがしないなら、俺がする」
テーブルの上に置いていたスマホを取り上げられそうになり、慌てて確保した。
「もっと怒られるから、イヤ! ねえ、送ってよ?」
「ヤダね。いまのおまえの状態じゃ、タクシーに乗車拒否されかねない」
「じゃあ、二人の家に泊めて?」
「断る。俺も愛華もパートナーがいるし、たとえ相手が椿でも、誤解を招くようなことは一切したくない」
「冷たい……わかった……柾、呼ぶ」
さんざん世話になっている二人の幸せを壊すような真似は、できない。
もうろうとしながら、電話帳で兄の名前を探し、電話を架けた。
「もし、もーし……」
『……椿? こんな時間にどうしたんだ?』