二度目の結婚は、溺愛から始まる
「酔っ払ってまーす」
『おまえな……』
電話の向こうにいる兄の声には、若干苛立ちが滲んでいる。
できるだけ、かわいい妹を演じることにした。
三十路でも、妹は妹だ。
「わたし、ものすごーく酔ってるの。だから、迎えに来て? ね? おねがい」
『誰と一緒だ?』
「涼とー、愛華とー……」
『どこにいる?』
「××××って、お店。安くって、美味しいの。今度、連れて来てあげる」
『どちらかの一ノ瀬に替われ』
「はーい! 涼、出て。柾が話したいって!」
スマホを涼に手渡し、残っていたグラスの水を飲み干す。
「えっ? 俺? もしもし、柾さ…………えっ! あ、あああ……はい……ええ、その、ちょっと飲み過ぎてますね。はい……飲ませました。すみません。おっしゃるとおりです。はい、ごもっともです……はい……はい、反省しています。二度とこのようなことがないよう、以後、気をつけますので……」
なぜか涼は背筋を伸ばし、おしぼりで額の汗を拭いながら、しどろもどろで詫びを入れている。
きっと、柾にネチネチ嫌味を言われているのだろう。
(相変わらず、柾はうるさいなぁ……)
少し酔いを醒ましておこうと、ぐびぐび水を飲み、アルコールを排出することにした。
人格の九十パーセントが小言で出来ている兄の車でリバースなんかしたら、一生呪われかねない。
ピッチャーで頼んだ水を半分ほど飲み、トイレに立つ。
「トイレ行ってくる」
「椿、大丈夫? 付いて行こうか?」
心配してくれる愛華に、にっこり笑う。
まだ意識はあるから、泥酔ではない。
「大―丈―夫っ!」
トイレを済ませ、酔い覚ましに顔を洗う。
(ふは……久しぶりに、飲んだな……)
鏡に映る顔を見て、「大人の女」からは程遠いことを再確認する。
髪は、ショートカットからボブくらいの長さまで伸びたけれど、体型は変わらない。色気は、皆無だ。
(胸が大きくならないのは……女性ホルモンが足りないから……? それとも……)
俯いた拍子にゴン、と鏡に頭突きしてしまい、目の前がチカチカする。
(うーん……酔っ払ってる……)
泥酔ではないが、十分酔っ払いであることを自覚しながらトイレを出ると、愛華と涼が待ち構えていた。
「お迎えが来たわよ」
「え? はやっ!」