二度目の結婚は、溺愛から始まる
「偶然、近くにいたらしい。外で待ってるから、行くぞ」
「え、え……カバン……」
「もう積んだ」
店の外には、なんだか見覚えのあるシルバーの車が停まっていた。
兄がいまどんな車に乗っているのか知らなかったが、運転席を確かめる間もなく、二人がかりで抱えられ、後部座席に放り込まれる。
「椿をお願いします」
「おやすみ、椿」
「え、あ! 涼っ! 愛華っ!」
二人がドアを閉めるなり、車は滑らかに走り出す。
「……いったい、どれだけ飲んだんだ?」
「えーと……ビールをピッチャーで、ワイン、焼酎、サワー……メニュー一巡したかな。ちゃんと水も飲んでたけど」
運転席から、舌打ちが聞こえた。
「飲みすぎだろ」
「まあね……でも、学生の時はこれが普通だった」
「とんだお嬢さまだな、まったく。よくお持ち帰りされなかったな?」
「だって、先に相手の方が潰れるから」
学生同士の飲み会は、先に酔ったもの勝ちだ。
最後の最後までシラフでいれば、後始末と介抱で酔いも醒める。
「むこうでも?」
「そうね……でも、むこうでは、あんまり飲まなかったから」
あちらでは、酒浸りの生活を送る暇がなかった。
毎日バールで働き、元気がよすぎる瑠璃の子どもたちの面倒を見るだけでクタクタ。お酒の力など借りずとも、ぐっすり眠れた。
「いい感じになっている男がいたと聞いたが?」
「男? そんなのいな……」
笑って否定しようとしたわたしは、三か月だけお付き合いした人のことを思い出した。
「あの人とは、三か月で終わったわ。キスが、好きになれなかったから」
「キス……?」
「んー、下手ではなかったけど、気持ちよくはなかった」
「…………」
割り切った付き合いをするという選択肢もあったが、その気になれなかったのは、キスをするたびに、違和感を覚えたから。
彼との「キス」は、わたしがしたい「キス」ではなかった。
(正確に言えば……わたしが「キス」したいと思っている人じゃなかった)
目をつぶり、心地よい揺れにまかせてウトウトしている間に、マンションに着いた。
「着いたぞ」
「んー、眠い……」