二度目の結婚は、溺愛から始まる
「きっ……きゃーっ! 何するのっ!」
平手打ちの一つもお見舞いしてやろうと思って顔を上げ、意外な表情の蓮を目にした驚きで怒りを忘れた。
「痣になっているところはないが……どこか、痛いところはないか? 昨夜は、手加減する余裕がなくて、かなり無理をさせた。しかも、酔っているとわかっていながら……抱いた。すまなかった……」
項垂れ、伏し目がちに詫びる姿は、叱られた大型犬のようだ。
「あ、あれくらいで、どうにかなるほど、ヤワじゃないわ。それに、酔ってはいたけど、ちゃんと自分が何をしているかわかっていた。あれは合意の上で……」
蓮は、わたしが本気で抵抗すればやめてくれただろう。
でも、わたしは抵抗しなかった。
「そうだとしても……いや、いま話すようなことじゃないな。着ていた服は洗ったが、まだ乾いていない。バスローブを置いておくから、とりあえずそれを着ろ」
バスルームの扉が閉まり、ひとり取り残されたわたしは、とりあえずシャワーを浴びることにした。
置かれていたシャンプーやコンディショナー、ボディソープは二種類。
一方は、シトラス。もう一方は、わたしが愛用しているチョコレートの香りがするものだ。
甘いものも、甘い匂いも好きではなかったはずなのに、趣味が変わったのだろうか。
諸々疑問はあったけれど、手早くシャワーを済ませた。
フックにかかっていたふかふかのバスローブに身を包み、タオルや歯ブラシと共に洗面台に置かれていたミネラルウォーターのペットボトルを開ける。
(相変わらず、完璧。ホテルみたい)
亭主関白そうに見える蓮だが、「自分のもの」にはかなり甘い。
ただの世話好きなのかもしれないが、わたしがぼうっとしている間に、たいていのことは準備が整っていた。
顔も体も頭脳もハイスペックで、その上気配りもできる。
まさに非の打ち所がない。
恋人として、妻として、「夫」である蓮に不満を抱いたことは、なかった。
仕事中毒なのは改めてほしいと思っていたけれど、何年経とうと嫌いになんてなれるはずが、なかった。
(嫌いになれたら……楽なのに)
溜息をひとつ吐き、新品の歯ブラシを手にチューブから歯磨き粉を出そうとして、首を傾げる。