二度目の結婚は、溺愛から始まる
「どう考えても、買いすぎよ! 二、三年は買わなくてもいいくらい」
「似合うものがあれば、着せてみたいと思うのが普通だろう?」
「普通は、思うだけに留めるわよ」
「実現させなければ、夢はただの妄想でしかない」
「も、妄想って……と、とにかく、もう十分だから!」
「そうだな。ここでの買い物は、もういいだろう」
「ここでって……まだどこかに行くつもりなの?」
蓮との攻防戦に疲れ果てていたわたしは、驚き半分、呆れ半分で蓮を睨む。
「俺の趣味に文句は言わないと言っただろう?」
「それは、そうだけど……」
ショッピングモールを後にして、街中まで戻った蓮は、何の店か一見してわからないところへわたしを連れて行った。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは、上品な中年の女性。
蓮を見て微笑み、驚きに固まっているわたしを見て、笑みを大きくした。
「れ、蓮、ここって……」
店内に陳列されているのは、レースやフリル、シフォンにサテンなど、さまざまな素材で作られた美しい女性用の下着だった。
「お久しぶりですね、雪柳さん。営業から離れたと聞いていましたが、お元気でしたか?」
女性の口ぶりからして、蓮が営業時代に取引していた店らしい。
数年前のものではあるが、店の棚や照明は『KOKONOE』の商品のようだった。
「ええ、おかげさまで。その後、お困りのことはありませんか?」
「実は、この夏に改装を考えているんです。いまの担当の方も、とても親切に相談に乗ってくださるので、『KOKONOE』さんのものを使う予定です」
「ありがとうございます。ぜひ、コキ使ってやってください。ところで……今日は、プライベートでお邪魔したんですが……」
「何なりとお申し付けください」
「あんな感じで、彼女に似合いそうなものを十セットほど、選んでくれませんか?」
蓮が指さしたのは、壁に飾られていた真っ赤な総レースのブラジャーとショーツ。
ブラジャーは芸術的な美しさだったが、ショーツにいたっては……隠すためではなく、見せびらかすためのデザインとしか思えない。
「あんなの無理よっ!」
すてきな下着を身に着ければ、気分が上がるという女性は少なくないと思うが、見た目より安心感を求めるわたしは、ごくごくオーソドックスかつ楽なものが好きだった。
「別に、ボクサーパンツにスポーツブラでもいいが、できればもう少し色気のあるものを身に着けてくれ。そのほうが、脱がす楽しみがある」
暗に色気がないと言われ、ショックを受けると同時にむっとした。
「だったら、脱がそうとしなければいいじゃない……」
「やろうと思えば、脱がさずともできるし、それはそれで興奮すると思うが……」
「蓮っ!」
他人には聞かせられないことを平気で言う口を塞ごうと手を伸ばす。
蓮はそんなわたしを抱え込み、店員に総レースのブラとショーツのセットを顎で示した。
「とりあえず、あれの色ちがいがあれば全部ください」
「かしこまりました」
さすがプロなだけあって、店員は上品な笑みを崩すことはなかったが、完全にわたしと蓮のやり取りを面白がっていた。
帰り際に、「ベビードールもこっそり入れておきましたから、彼を驚かせてあげて」と耳打ちされ、恥ずかしさで倒れそうになった。