二度目の結婚は、溺愛から始まる
「誰が自然に任せると言った? その気にさせるにきまってるだろうが」
蓮は、にやりと笑う。
「それって……」
わたしが口を開きかけた時、ちょうど注文した品が運ばれて来た。
スマホを取り出し、ラテアートの写真を撮る。
許容範囲の出来だが、味は八十点といったところ。
あちらのエスプレッソに慣れた舌には、どうも薄く感じてしまう。
「不満そうだな?」
「わたしの舌が、まだ日本仕様になっていないせいよ。蓮は何を飲んでるの?」
蓮のコーヒーからは、フルーティーな香りがした。
「ハワイコナだ」
「コナコーヒーが好きなの?」
「知人にハワイ土産に貰って以来、好きになった。ただ、自分で淹れても満足できる味にならないから、店で飲むことにしている」
「わたしも、コナコーヒーは好きよ。買って帰る? 美味しい淹れ方も教えてあげる」
『TSUBAKI』の店舗では販売していないが、近くに取り扱っている店があったはずだ。ブレンドでも楽しめるが、できればコナ百パーセントが飲みたい。
「椿が好きなら、そうしよう」
甘い笑みと共にさらりと言われ、めまいがした。
「ついでに、椿の好きなショコラティエの店にも寄ればいい。新作が出ていたはずだ」
「新作? 蓮、いつから、チョコレートに詳しくなったの?」
(甘いものをほとんど口にしなかったはずなのに……)
「今朝からだ」
「今朝?」
「調べたんだよ。俺は小心者だから、デートの計画も入念に立てる」
「これは、デートじゃな……」
反論しようとしたが、仕事をしろとたしなめられた。
「俺と言い合うより、経営者としての仕事を優先しろ。こうして客のフリをして店の様子を確かめるチャンスは、そうそうないぞ」
蓮の言うように、確かに貴重な機会だった。
一度、経営者としてスタッフと顔を合わせてしまえば、客のフリをするのは不可能なのだから。
常連である蓮から見たカフェの様子も交えながら、スタッフの様子や客層、店舗の全体的な雰囲気など気がついたことをスマホのメモに打ち込む。
二年前、蒼とコラボした期間限定カフェをきっかけに、涼がテーブルやソファー、カウンターから食器に至るまで一点ものを使いたいと言い出し、内装を大きく変えた。
利用客の反応が少し心配だったが、概ね好評のようだ。