二度目の結婚は、溺愛から始まる
「おいおい、椿をその気にさせんでくれ、雪柳くん。椿には、いますぐにでも結婚して、さっさとひ孫を見せてほしいと思っているのだから」
「お祖父さまっ!」
蓮は苦笑しながら、祖父の発言にやんわりと反論する。
「会長。椿さんはまだ学生ですし、友人や彼氏と過ごすほうが楽しいでしょう」
「彼氏だと? そんな男がいるのか? 椿」
途端に不機嫌になる祖父に、お嬢さまらしい所作など忘れ、ぶんぶんと首を振る。
「い、いないですっ!」
「いない? こんなにかわいいのに、とても信じられないな」
蓮の思わぬ言葉に、カッと頬が熱くなる。
「……あの……そんな、ことは……」
男性に「かわいい」と言われるのは初めてだ。
今日はドレスアップしているが、普段はカジュアルな服装しかしないし、スカートだって滅多に着ない。
馴染みがある形容詞は「個性的」「面白い」。よくて「魅力的」だった。
「もしかして、これまで一度も男性と付き合ったことがないのかな?」
見栄を張ってもしかたない。
正直に認める。
「……そう、ですけれど」
蓮は、まるで珍獣でも見つけたような驚愕の表情でわたしを見た。
(そんなに驚かなくてもいいじゃない……好きな人がいなかったんだから)
わたしがむっとしたのを感じたのか、蓮はふっと笑みを浮かべた。
目には、からかいの色が見え隠れしている。
「椿さんのように純粋な人は、悪い男に引っかからないためにも、結婚を前提とした付き合い――お見合いで相手を見つけるほうがいいかもしれないね」
「でも、わたしは……結婚するなら、好きな人としたいです」
「好きな相手と結ばれるのは、当たり前のことではない。それなら、奇跡を起こす勇気がないと。諦めずに、縁を結ぼうと行動しなければ、欲しいものは手に入らないよ」
(この人……わたしを自分では何もできない「お嬢さま」だと思っているんだわ)
生来の負けず嫌いが、むくむくと頭をもたげた。
子ども扱いされるのも、世間知らずのお嬢さま扱いされるのも、イヤだった。
気まずくなったらどうしようなんて懸念は頭の中から吹き飛んで、彼が纏う「大人の余裕」を引きはがしてやりたくなった。
「お祖父さま。わたし……お見合いがしたくなりました」
唐突なわたしの発言に、祖父が目を丸くする。
「どうしたんだ、椿? 突然そんなことを言い出して……」
「雪柳さんと縁を結んでみたくなったんです」