二度目の結婚は、溺愛から始まる

各テーブルに置いてある製作者を紹介した冊子を手にしたり、店で使用しているテーブルウェアやインテリア小物を買い求めたりする人の姿もちらほら見受けられる。

ほっとする反面、拭いきれない違和感を覚えた。

七年前は、確かに「自分たち」の店だった。
七年前、確かに三人の見ていた未来図は同じだった。

でも、わたしは涼と愛華とはちがう場所で、ちがうものを見て生きていた。

いまのわたしが見ている未来図は、二人が見ているものとはちがうものかもしれない。


「そろそろ、行くか」


小一時間ほど過ごし、蓮が伝票を手に立ち上がった。

帰りがけにコーヒー豆の専門店でハワイコナを購入。

わたしお気に入りのショコラティエの店にも立ち寄ったが、蓮は目移りしてなかなか商品を選べないわたしにしびれを切らし、端から全部買おうとした。

もちろん、そんなに食べられないと必死で止めたが、店員やその場にいたほかの客から生暖かい目で見られ……。

当分、あの店には行けない。

買い物するだけでもかなり疲れたが、蓮の部屋に戻ってからは、買ったものをクローゼットに片付ける作業が待っていた。

後回しにすればするほど面倒くさくなる。
分類は二の次にして、次々とハンガーにかけ、しまっていく。

蓮も手伝ってくれたので、作業は三十分程度で終了。
下着については、後ほどスーツケースにしまうことにした。


「そう言えば……ねえ、蓮。クローゼットは一緒に使うとしても……わたし、どこに寝ればいいの? リビング?」


蓮のマンションは2LDKだが、寝室ではないもう一部屋は仕事部屋になっている。
資料や本で埋まっていて、片付けるとなるとかなりの重労働になるだろう。

布団さえあればリビングで寝ることもできるが、お互いに落ち着かないと思われた。

しかし蓮は、何でもないことのように、クイーンサイズのベッドを顎で示す。


「ベッドは、一つあれば十分だろ」

「……まさか、一緒に寝るつもり?」

「別々に寝るつもりなのか?」

「だ、だって……」

「恋人同士なら、同じベッドでいいだろう?」


当然のごとく言われ、反論を試みる。


「こ、恋人になると決まったわけじゃないし……」


今日は、なし崩し的にデートらしきものをしたけれど、わたしたちの関係を「恋人同士」と言うには無理がある。


「俺は、セフレになるつもりはないぞ」


蓮は、あからさまな仏頂面で宣言した。

< 80 / 334 >

この作品をシェア

pagetop