二度目の結婚は、溺愛から始まる
子連れや商談で利用する場合を考えて作った個室は、四人掛けのテーブルがひとつあるだけでさほど広くはない。
大きな窓をつけることで圧迫感を軽減したので、オープンスペースよりも明るさを感じられる。
「すまん、遅くなった」
わたしたちが部屋に入るなり、戸口近くに座っていた青年が立ち上がった。
「いえ、俺たちも来たばかりで……あ、椿先輩っ! お久しぶりです。お元気でしたか?」
「元気よ。緑川くんも元気だった?」
大学生だった頃と変わらず、屈託のない笑みを見せる緑川くんは、勢いよくハグをする。
「はいっ! 椿先輩に会えて、ますます元気になりました!」
しっぽをちぎれんばかりに振る子犬のように、まっすぐな好意を向けてくれるのが、心地いい。
「蒼っ! 椿先輩が来たぞ!」
真剣な表情でスケッチブックに何かを描いていた人物が、パッと顔を上げた。
紅茶色の髪にチョコレート色の瞳。
少し大人びてはいるが、まちがいなく蒼だった。
「椿先輩の……本物?」
「本物よ。こんな美人、世界に二人といないでしょ?」
冗談めかして言うと、蒼は席を立ってわたしに飛びついた。
「椿先輩っ!」
ぎゅっとハグをした蒼は、顔つきだけでなく、身体つきも七年前よりだいぶ大人びている。
「大人になったわね?」
「椿先輩は、あんまり変わらないね」
「褒め言葉と受け取っておくわ」
「まさか本当に来てくれるとは、思わなかった」
「ちょっと別件で帰国することになってね。しばらくこっちにいることにしたから、かわいい後輩のためにひと肌脱ごうかと思って」
「やったっ!」
「まさか蒼が結婚するなんて。チョコレートよりも好きなものができるなんて、驚いたわ」
「うん。でも、紅はチョコレートより美味しいから」
「…………」
(それは……そういう意味?)
どう反応していいかわからず、咳払いしてスルーすることにした。
「紅って……蒼のお嫁さん?」
「そうだよっ! これが紅。こっちが紫。二人とも、美人でしょ?」
蒼は嬉々としてスマホを取り出し、待ち受け画面をわたしに見せた。
肩まである黒髪を一つに束ねた猫目の美人が、腕にかわいらしい赤ちゃんを抱いている。
赤ちゃんの髪の毛は、紅茶色だ。
「紫って……蒼の子ども?」