二度目の結婚は、溺愛から始まる
結婚しただけでなく、既に娘までいると知って驚いた。
「うん。三か月」
急な結婚の理由に納得したが、娘の名前がふと気になる。
「もしかして、青と赤だから……紫にした?」
蒼は、満面の笑みで頷いた。
「そう、正解っ! でも、次をどうしようか、悩むところなんだよね。白と黒だと灰色になっちゃうし……」
「蒼……二人目が欲しいかどうかも含めて、紅さんの考えも聞けよ?」
「もちろん! でも、紅も俺も兄妹がいないから、もう一人くらいはほしいって思ってる」
一人目が生まれたばかりだというのに、もう二人目の話をしている蒼に、緑川くんは呆れ顔だ。
ちょうどそこへスタッフがコーヒーを運んで来た。
「とりあえず、座って話そうぜ」
涼に促されて、ようやく本題へ入った。
猫をモチーフにしたいこと、子連れで来る人もいるのでキッズスペースが欲しいこと、メニューは軽食でもいいが、鶏肉必須。
思いつくまま、考えつくままに蒼が上げた要望を愛華がリストアップしたが、軽く五十は超えている。
この場ですべてを決めるのではなく、要望を基にして考えたアイデアを改めて持ち寄るということで、緑川くんは話をまとめた。
「今週末、蒼の家で今回協力してくれる人が全員集まる予定になってるんですけど、椿先輩は来られますか? 実際の場所を見ないとデザインするのは難しいかな、と思うんで」
「蒼のお嫁さんの意見も聞かないといけないと思っていたし、それは大丈夫だけど……わたしなんかのデザインで、本当にいいの? プロじゃないのに」
招待客の数はさほど多くないと言うが、リストに並ぶ名前を見る限り、大学関係だけでも名の売れているデザイナーや画家など、かなりの数の「大物」が含まれていた。
プロではないわたしが、そんな人たちの目に触れるものをデザインしていいものか、にわかに不安になる。
「大丈夫。椿先輩のデザインなら、きっと紅も気に入るよ。」
何の根拠があってそんなことを言うのかわからないが、蒼は自信たっぷりだ。
「だといいけれど……」
「それじゃあ、土曜日に」
「紅と紫と待ってるね! 椿先輩」
一時間ほど打ち合わせに費やした後、蒼と緑川くんは仕事へ戻って行った。