二度目の結婚は、溺愛から始まる
「さてと……この後、どうする? 椿。店に出てみるか?」
「そのことなんだけど……いま、時間ある?」
わたしは、席を立とうとする涼と愛華を引き止めた。
「もちろんよ」
「なくても、作るさ。昨日のこともじっくり聞きたいし」
涼と愛華の含み笑いを打ち消すために、まずは蓮と店を訪れたことを自ら暴露する。
「昨日、蓮と二人で店に立ち寄ったことは、もう耳に入っていると思うけど……」
「ああ。全女性スタッフが落ち込んでた。女性の方が泣いていたから、別れ話かと思ったら、帰る時は手を繋いでたらしい」
「蓮さんは、甘々の笑顔を炸裂させていて、目の毒だったらしいわね」
どれも事実なだけに、余計に恥ずかしい。
耳までジンジンするほど顔が熱くなる。
「二人とも、いい加減にして。真面目な話ができないじゃないの!」
「復縁を祝ってるんだよ」
「そうよ。元サヤを祝福してるのよ」
復縁したわけでも、元サヤに収まったわけでもないと言おうとした矢先、いきなり涼に断定された。
「一緒に住んでるんだろ?」
「ど、どうしてそれを……」
「蓮さんから、椿に何かあったら自分に連絡するよう言われたんだよ」
「酔った椿が、帰宅先をまちがえるといけないからって、蓮さんの家の住所も聞いているわ」
用意周到な蓮の対応に、驚きを通り越して怒りすら湧いてくる。
(どうして、勝手にそんなことをするのよ! 蓮のバカ!)
何もできない子どもではない。いい大人だ。
自分で自分の面倒くらい、見られる。
「それから、椿の決断を後押ししてやってほしいって言われたわ」
「椿の居場所は、カフェ以外にもあるから安心してくれとも」
そっくりな顏に、そっくりな微笑みを浮かべる涼と愛華は、わたしが何を言おうとしているのか、知っていた。
夜明けまで理想の店について語り合ったこと。
資金集めに奔走したこと。
無理だと言われても諦めなかったこと。
利用客から厳しい意見を貰って落ち込んだこと。
目が回るような忙しさの中でも、充実した毎日だったこと。
いろんなことを思い出し、涙がこぼれそうになった。
「ごめん……六年も放っておいたくせに……本当に、ごめんなさい。いまのわたしは……カフェ『TSUBAKI』 を自分の店だとは思えない。いまのわたしが目指すカフェは、二人の目指すものとはちがってしまっていると思う。だから……共同経営者であることを辞めたい」