二度目の結婚は、溺愛から始まる
七年前に三人で見た夢は、確かに叶った。
でも、わたしは二人と同じ夢を見続けることができなかった。
昨日感じた違和感は、たとえこの先日本に居続けたとしても、なくならない。
わたしは『TSUBAKI』という空間を作り上げたけれど、そこに『いのち』を吹き込み、血の通うものにしたのは、涼と愛華だった。
「謝ることないわ。椿がいなければ、そもそもカフェ『TSUBAKI』 は生まれなかったんだから。むしろ、わたしと涼が椿の居場所を奪ってしまったんじゃないかって、ずっと気になっていたの」
「奪ったなんて思ってない! 二人が『TSUBAKI』を守ってくれたから、わたしには帰る場所があるって思えた。繋がっていられたの」
何もかも置き去りにして逃げ出したのは、帰れる場所があったから。
夢や希望を詰め込んだ、大事なものを失わずにいられたからだ。
「俺たちも、椿が帰ってくるまでは何としてでも店を守らなきゃならないって思ったから、頑張れたんだ。カフェ『TSUBAKI』を続けていくのは、俺と愛華だとしても、作ったのは俺たち三人だ。だから……経営者の立場を離れても、どんな形でもいいから――客としてでもいいから、椿には関わり続けてほしい」
涼の言葉に、堪えていた涙があふれた。
「ありがとう。わたしに協力できることがあるなら、何でもする」
「椿が新しいことを始めるときには、わたしたちも協力するわ。ね? 涼」
「もちろんだ」
自分たちのことだけでなく、わたしの未来まで心配してくれる二人には、頭が上がらない。
「その時は、よろしくお願いします」
「任せとけ。でも、まずは蓮さんとの仲をしっかり修復しろよ?」
涼は、頼もしい言葉をくれると同時に、厳めしい顔でわたしを諭す。
「修復って……蓮と仲違いしているわけじゃないわ」
「だったら、さっさと復縁しなさいよ?」
「何を言い出すのよ? 愛華まで。離婚した相手と復縁するなんて、あり得ないわ」
「そんなことないと思うわよ? 一度は好きになった人だもの。嫌いになって別れたわけじゃないなら、また好きになるかもしれないじゃないの」
愛華の指摘に、ギクリとした。
「椿は、蓮さんがほかの人と結婚してもいいのか?」
「そ、れは……」
涼の問いかけに、即答できなかった。
蓮が自分ではない相手と結婚する可能性をまったく考えなかったわけじゃない。
いつか風の噂で聞くことがあるかもしれないと思っていた。
それでも、二度と会うことはないのだし、彼の隣にあの人がいるのを目の当たりにすることはないのだから、受け入れられると思っていた。
(でも、こうして再会し、赤の他人とは言い切れない関係に陥ってしまったいまは……)
愛華は、口ごもるわたしを見て、そっと呟いた。
「答えられないのが、答えだと思うわよ? 椿」