二度目の結婚は、溺愛から始まる
空白を埋める
春キャベツの胡麻和え、菜の花のおひたし、タケノコの土佐煮。
サワラは唐揚げにして香味ソースを添える。
アサリが食べたかったので、お吸い物に。
帰りがけにスーパーに立ち寄ったら、あれこれ食べたくなって、ついつい買い込んでしまった。
蓮は早めに帰って来ると言っていたから、夕食を家で食べるつもりなのだろうと思って作ってみたものの、出来栄えにはあまり自信がない。
(薄味にしたけど……蓮の口に合うかどうかわからない……)
蓮が和食好きで、日本酒が好きなことは知っているが、味の好みまでは把握していなかった。
お互い、知っているようで知らないことが、たくさんある。
恋が、相手のことを知りたいと思う気持ちから始まり、知りたいと思う気持ちがなくなった時に終わるのだとすれば、わたしたちは相手のことを知る前に関係を断ち切ったようなものだ。
(結婚していたけれど……本当は「恋」すらできていなかったのかもしれない)
付き合っていたときも、結婚してからも、わたしたちが一緒に過ごした時間はあまりにも短すぎた。
絆を作り上げるには、時間が足りなかったのだと思う。
だからと言って、いまならできるとも限らない。
完全に縁を断ち切りたいのか、それとも細くてもいいから繋ぎ続けていたいのか。
自分が蓮とどうなりたいのか、わからなかった。
(蓮に惹かれている。でも、純粋に「好き」だと言える? 未練から、流されているだけかもしれないし……もう一度始めたところで上手くいく保証はないし……それに……)
小さく溜息を吐いた時、玄関の方から物音がした。
廊下を覗き、声をかける。
「おかえりなさい」
俯いていた蓮が、弾かれたように顔を上げた。
「どうかしたの?」
そんなに驚かれると、居てはいけなかったのかと思ってしまう。
「……出かけているかと思った」
「毎晩、飲み歩くとでも?」
「六年ぶりの帰国なら、いろいろと付き合いもあるだろう?」
「むしろ、ほとんどの人とすっかり疎遠になってるわ。近々、友だちの結婚式で懐かしい顔ぶれが揃うから、その時にまとめて近況報告するつもり。晩御飯あるけど、食べる?」
「作ったのか?」
「味は保証しないけど。出かける用事がないときは、蓮の分も作る?」
「……嬉しいが、無理はしなくていい」
結婚していた当時は、お互いに忙しくて夕食を一緒に取ることも稀だった。
蓮に手料理を振る舞ったのは、数えるほどしかない。
「あくまで、ついでよ。同居させてもらってるんだし、これくらいはさせて」
「同居じゃない、同棲だ」