二度目の結婚は、溺愛から始まる
蓮は、切れ長の目をいっぱいに見開き、「正気か?」と言いたげにわたしを見返す。
こんな大胆なことが言えるなんて、自分でも驚いたけれど、一度口にしてしまったことを取り消すわけにはいかない。
ましてや……負けるわけにはいかない。
「雪柳さんに、男性との距離の取り方や付き合い方などを教えていただきたいんです。お祖父さまのお眼鏡にかなうくらいですもの。信頼のおける方なんでしょう?」
「……ふむ、そうだな。雪柳くんが椿と結婚すれば、柾の右腕として社を支えてもらうのにも都合がいいか……」
祖父はひとり納得し、頷いている。
「会長っ! とても光栄なお話ですが、自分はまだ半人前です。結婚などできるような身ではありません。ましてや、見合いなど……」
焦って言い訳する蓮に、大人の余裕は見当たらない。
「わたしだって、いますぐ結婚したいとは思っていません。学生ですし。でも……せっかくの縁をここで終わりにするのは、勿体ないと思うんです」
にっこり笑ってそう言えば、蓮は引きつった笑みを浮かべ首を振る。
「縁なら、ほかにいくらでもでもあるでしょう? 自分のような男と結ばなくとも……」
「わたしの大学の友人にお願いするより、雪柳さんにお願いしたほうが、お祖父さまも安心でしょう?」
祖父を味方につけるべく、押しの一手で畳みかける。
「確かに、雪柳くんなら安心だ。見合いだなどと堅苦しく考えず、時間のある時に、椿の我儘に付き合ってやってはくれんかね?」
立場を弁えている人物なら、会長である祖父の願いを撥ねつけられるはずがない。
こんなやり方は卑怯だ。
でも、そうでもしなければ、蓮との接点は『CAFE SAGE』しかない。
バリスタとお客さま以上の関係にはなれないのだから、手段を選んではいられなかった。
「恋人になってほしいだなんて言いません。お仕事の邪魔もしません。一緒にお食事をしたり、お茶をしたりするだけでいいんです。どうしても、ダメでしょうか……?」
トドメとばかりに、しおらしく上目遣いに訊ねた。
大学の友人や兄の柾がいまのわたしを見たら、病院へ担ぎ込むだろうと思いながら。
「……わかりました。ただし、頻繁に会うのは無理です。仕事を優先することを認めていただきたい」
ついに蓮は溜息を吐き、苦々しい口調で了承した。
(……勝った!)
拳を突き上げ、走り回りたいくらい嬉しい気持ちをひた隠しにし、わたしはあくまでも上品に、微笑んだ。
「ありがとうございます。雪柳さん」