二度目の結婚は、溺愛から始まる
(蓮もこんな感じだったとは、思いたくないけれど……)
そんな蓮の姿を見たいような、見たくないような、何とも言えない気持ちに駆られる。
「そろそろ、ピークは過ぎたかしらね?」
ひと通り注文をさばき終える頃には、客足も止まっていた。
「そうだと思います。いつも大体、三十分くらいで終わりますから……」
「それなら、あとは一人でも大丈夫ね」
「はい。あの、ありがとうございました。もう一人のスタッフが、急にお休みになって……ヘルプも間に合わなくて」
「いいのよ。どうせヒマだったし。でも、いつもとちがう味になってしまったと思うから、そこはごめんなさい」
「とんでもないです! カフェで働いていらっしゃるんですか?」
「ええ、まあ……」
「わたし、どうしても手際が悪くて……」
項垂れる店員の姿に、ついアドバイスしたくなる。
「慣れるしかないけれど、すぐに改善できるところもあるわ」
動き方や手順など、いますぐ改められるポイントについて話していたわたしは、ふと視線を感じて顔を上げ、固まった。
(まずい……すっかり、忘れてた……)
「椿? 何をしているんだ? そんなところで」
年齢を感じさせないシャキシャキした足取りでカウンターまでやって来た祖父は、カフェエプロンをしているわたしを見て、顔をしかめる。
「お、お祖父さま……」
「どういうことだね? 雪柳くん。椿は、家でゆっくりしているんじゃなかったのかね?」
「そのはずだったんですが……」
待ち合わせていた祖父がやって来たのはしかたないとしても、その傍らに蓮がいるのは想定外だった。
スーツ姿もオフィスで見ると一段とカッコイイ……などと、思っている場合ではない。
カフェにいる社員たちの興味津々の視線を感じつつ、こちらを見下ろす蓮に、にっこり微笑む。
「ご注文をどうぞ?」
「……ブレンドで」
「わしも、同じものをもらおう。それを作ったら、こっちに来なさい」
祖父の言葉に、笑みを維持したまま答える。
「かしこまりました」