二度目の結婚は、溺愛から始まる


(蓮もこんな感じだったとは、思いたくないけれど……)


そんな蓮の姿を見たいような、見たくないような、何とも言えない気持ちに駆られる。


「そろそろ、ピークは過ぎたかしらね?」


ひと通り注文をさばき終える頃には、客足も止まっていた。


「そうだと思います。いつも大体、三十分くらいで終わりますから……」

「それなら、あとは一人でも大丈夫ね」

「はい。あの、ありがとうございました。もう一人のスタッフが、急にお休みになって……ヘルプも間に合わなくて」

「いいのよ。どうせヒマだったし。でも、いつもとちがう味になってしまったと思うから、そこはごめんなさい」

「とんでもないです! カフェで働いていらっしゃるんですか?」

「ええ、まあ……」

「わたし、どうしても手際が悪くて……」


項垂れる店員の姿に、ついアドバイスしたくなる。


「慣れるしかないけれど、すぐに改善できるところもあるわ」


動き方や手順など、いますぐ改められるポイントについて話していたわたしは、ふと視線を感じて顔を上げ、固まった。


(まずい……すっかり、忘れてた……)


「椿? 何をしているんだ? そんなところで」


年齢を感じさせないシャキシャキした足取りでカウンターまでやって来た祖父は、カフェエプロンをしているわたしを見て、顔をしかめる。


「お、お祖父さま……」

「どういうことだね? 雪柳くん。椿は、家でゆっくりしているんじゃなかったのかね?」

「そのはずだったんですが……」


待ち合わせていた祖父がやって来たのはしかたないとしても、その傍らに蓮がいるのは想定外だった。

スーツ姿もオフィスで見ると一段とカッコイイ……などと、思っている場合ではない。

カフェにいる社員たちの興味津々の視線を感じつつ、こちらを見下ろす蓮に、にっこり微笑む。


「ご注文をどうぞ?」

「……ブレンドで」

「わしも、同じものをもらおう。それを作ったら、こっちに来なさい」


祖父の言葉に、笑みを維持したまま答える。


「かしこまりました」


< 97 / 334 >

この作品をシェア

pagetop