二度目の結婚は、溺愛から始まる
二人が席へ着くのを待って、店員が小声で訊ねた。
「あの……会長とお知り合いですか?」
「ええ。祖父なの」
「えっ」
(なんで蓮が一緒なのよ……お祖父さまだけなら、なんとかごまかせたかもしれないのに)
祖父と蓮、二人からお小言を頂戴するのかと思うと、うんざりしてしまう。
「あの、すみませんでした。その、知らなくて……」
青ざめている店員に、心配はいらないと言い聞かせ、エプロンを返し、出来たてのブレンドを持って二人の下へ向かう。
「おまたせいたしました」
笑顔と共にテーブルにコーヒーを置き、そのまま椅子に座る。
「どういうことか、説明せんか」
苦いコーヒーに苦い顔をして、祖父が命じる。
「もう一人のスタッフが、急にお休みになったそうなの。とても一人では、オーダーをさばき切れないから、手伝ったのよ」
「それは、椿の仕事ではないだろう? 運営を任されている者が対処すべき問題だ」
蓮の指摘は正論で、だからこそむっとした。
「待っていては社員の貴重なランチタイムがなくなってしまうと思ったの。『KOKONOE』の社員を大事にするのは、創業者一族としての責務でもあるし、わたしにできることをするのは当然でしょう?」
「確かにそうだが、男性社員の機嫌を取る必要はないだろう?」
「機嫌を取るって……男性社員じゃなく、お客さまよ!」
「ただの客なら、注文されたものを渡すだけで十分だ」
「無愛想な態度で不愉快な思いをさせるなんて、プロとして許されないわ」
「だからと言って、ここで誰彼かまわず笑みを振りまく必要など……」
わざとらしい咳払いが聞こえ、蓮が口を噤む。
「正しくは、男性社員で客だな」
祖父の冷やかすようなまなざしに、蓮はバツの悪そうな顔をした。