二度目の結婚は、溺愛から始まる
「とにかく、今日の一件については柾の耳にも入れておこう。社員がリラックスするために作った場所だ。その役目を果たせないようでは、契約更新の可否を含めて検討する必要があるだろうからな。しかし……」
惰性で運営を任せるほど、甘くはない。
険しい表情でそう言った祖父は、にっこり笑った。
「椿の淹れたコーヒーを味わえた社員は、幸運だな」
「幸運かどうかは、わからないわよ? お祖父さま。いつもと味がちがったでしょうし」
「確かに味はちがうが、いつもより美味い」
蓮の感想に、つい顔がほころびそうになったが、それも一瞬のことだった。
「昼に、蕎麦でもと思って椿を呼んだんだが、雪柳くんも一緒にどうだね?」
「お祖父さま! 蓮は、仕事で忙しいのに……」
何を言い出すかわからない祖父と蓮を一緒にしたくない。
押しが強く、口うるさい二人を同時に相手にするなんて、分が悪すぎる。
どうか蓮の予定が詰まっていますようにと祈ったが、あっさり承諾された。
「喜んでご一緒させていただきます」