パステルピンクの中で
わたしは、急にいいことを思いついた。
「ちょっと登ってみる!」
そう言って、わたしは木の元へ走った。
「え……。大丈夫かよ……」
背後から、彼の心配そうな声が聞こえたので、わたしは振り返った。
木登りなんて、始めてじゃないから別になんの心配もない。
わたしは、にっこりと彼に笑ってみせた。
「平気、平気!」
五十嵐くんの心配をよそに、わたしは登り始めた。
「よいしょ、よいしょっと」
わたしはそんな風に声を上げながら、どんどん上の方の木の枝に足を乗せていく。
「ふぅー。登れたー」
わたしはそばにあった太い枝に座った。もっと上の方にも木の枝があったけれど、あまり高すぎると危ないので今いるところでやめておいた。
「あれ? 五十嵐くんは、登らないの?」
「俺はいいよ」
表情を全く変えることなく、彼は答えた。
「ふーん」
わたしは、口の中で声を出した。
桜が近くにあったからのか、それとも風が急に吹いてきたからなのか、春の香りがするように感じられた。