浅き夢見し頃に囚われて
 すごく、イイ夢を見た。あのクソみたいな元カレみたいな自分本位じゃなくて、私を尊重してくれるような優しい優しい触れ合い。唇から何まで優しく口付けられて、まるでお姫様になったかのような夢心地になった。女として意識されて扱われるのなんて久しぶりだから、と浮かれていてはたと気づく。

 この夢、いつまで続くんだろう。


「あ、起きた。おはよ。」
「……オハヨーゴザイマス。」


 ぱちっと目を開けてみて飛び込んできたのは、健康そうな肌色。なかなか包容力のありそうな厚い胸板だと観察しながら、顔を上げればうっと唸るようなイケメンと目が合った。切れ長の吸い込まれるような綺麗な黒い瞳に、少し長めだと思われる髪は枕の上にぐしゃぐしゃに散らばっている。意見すると冷たそうにも見えなくもない顔は、目尻を下げていてふんわりと笑っているように見えてほんわかとする。うん、イケメンだ。これでオジサンとかだったら、と考えてしょっぱい気持ちになった。

 正直、何が何だか分からない。いや、身体がちょっとミシミシとしてて、事後特有の気だるさを感じているのは流石に鈍い私でも分かる。最悪なことに、下半身から太ももに伝う何かの正体を察して、頬を引き攣らせた。


「身体、大丈夫?」
「……ナマ、ですよね。」
「キミが、ピル飲んでるから大丈夫って言ったから。ゴム付けようとしたら邪魔してくるし、捨てちゃうし。」


 確かに、低用量ピルは飲んでいた。間違っても、こういうことをするためではない。生理が重いからであり、間違ってもこういうことをするためではない。大切なことなので2回言った。

 でも、記憶を探ると彼が言ったこともあながち間違いではないような気もする。《《あの夢》》が事実だとするならば、強請った記憶がなくもない。というか夢だと思って色々と自由奔放にし過ぎた気がする。だって、あーんなことや、こーんなこと、普段言わないことも言ってしまったしヤってしまった、ような気がするような違うような。

 ひとまず、相手が言っていることが正しいかどうかの検証は後で良い。今はなるべくベストな関係を築いていくのが吉、男と女じゃ力の差があるし。


「なんというか、大変ご迷惑をおかけしました……。」
「いいよ、役得だったし。……念のためにピル飲んでるのかだけ確認させてもらってもいい?」
「ああ、はい。そうですよね、ちょっと待って下さいね。」


 行きずりの女がピル飲んでるから、って言ってるからって信用してヤっちゃうこの人もこの人だと思うけど、言うことは尤もだ。鞄を探そうと立ち上がろうとして上半身を起こしたのは良いんだけど、足に力が入らなくてがくんと姿勢を崩した。

 視線を感じて、そちらを向けば欲に塗れた瞳が身に何も纏っていない私を映していた。
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