浅き夢見し頃に囚われて
 私は、就活が終わってからはかなり明るいハニーブラウンに髪を染めていた。でも、社会人になるのだからと黒に染め直した。ゆるいパーマをかけていたけど、縮毛矯正をしてストレートに直した。新人なのだからと、ポニーテールに前髪を斜めに流して、就活スタイルに近い形で出勤していた。メイクも、濃いめからナチュラルメイクに変えている。周りに合わせて、そのうち変えるつもりだけど、とにかく合コンの時とはかなり印象が違うと思う。

 でも、名前と声は変えられない。つまり、身バレは必須だったかもしれない。


「真継さん、経理課だったんだ。」
「そうそう。大学の時に簿記とっとけば良かったー。」
「今からでも遅くないんじゃない?」
「まあね。支倉くんは、営業一課でしょ。花形じゃない。」


 その分大変だろうから頑張るよ、と内心冷や冷やしながら支倉くんと会話していた。先輩方は気を遣ってくれたのか、それとも2人で話したいのか、2手に分かれて会話していた。流石に初日では先輩方の会話についていけない、というのもある。いや、羽入さんがやたらと楽しそうなので、倉光さんを狙っているのかなと思う。

──タツキ、キスして。
──ん、いいよ。


「ぅおっ!?」
「ぇえっ!?どうしたの真継さん。」
「あ、いや、何でもない。」


 気付いたら、支倉くんに驚かれただけじゃなく、先輩方にくすくすと笑われているのに気付いた。えへへ、と誤魔化しながら《《あの夢》》の中でタツキと呼んでいたことを思い出した。夢っていうか、朦朧としていただけで現実なんだけれども。

 昼間からピンクなことを考えていたせいもあり、余計に頬が熱かった。


「そろそろ戻らなきゃね。じゃあね、2人とも。真継さん行きましょう。」
「あ、はい。またね、支倉くん。失礼します。」


 羽入さんに促されて席を立つ。男2人も席を立って、食器を返却すると別れた。


「2人とも、イイ男よね。ラッキーだったわ。」
「そうですねー、眼福でした。」
「真継さんは、どっちがタイプ?」


 出た、と思った。合コンでも、どっちがタイプかなんて話したり、誰を狙っているのか探ったり、とにかく気を遣う。会社でやるのは面倒くさいな、とため息つきたくなるのを隠して、笑顔で応える。


「えー、選べませんよ。イケメンですもん。羽入さんは、倉光さんですか?」
「分かっちゃう?やっぱり好みのタイプと話すと午後も頑張れるわよね。」


 私そのあなたのタイプの男と寝ました、と言ったらどんな反応をするんだろう。言わないけど。

 今後のことを思うと、憂鬱になった。
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