熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「ぽん太さん?」

「その肝心の登紀子さんが、つくもには、もうおらんのじゃ!」

「え、ええっ⁉ 登紀子さんがいない!?」


 ぽん太の言葉に、黒桜は重い溜め息をつき、八雲は眉間のシワを更に深くした。


「と、登紀子さんがいないって、どうしてですか!?」


 花も驚いて、ぽん太に尋ねる。


「登紀子さんは、つい一ヶ月ほど前に、そろそろ自分も休みたいと言って隠居してしまったんじゃ!」

「そうなんですよね……。だから今は、登紀子さんの弟子が、調理場を任されています」

「え……えーーっ!!」


 花は悲鳴を上げずにはいられなかった。

 つまり、登紀子さん不在という状況では初めて虎之丞をもてなすということだ。

 再び不安が胸に押し寄せた花は、ぽん太と黒桜に縋りついた。

 
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