熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「と、登紀子さん不在で、今回はどう乗り切るつもりなんですか⁉」


 今の話を聞く限りでは、虎之丞は登紀子さんにしか扱えないという印象だった。

 けれど今回は、その肝心の登紀子さんがつくもにいないのでは八方塞がりもいいところ。

 ただでさえ花は、仲居の経験もない素人だというのに……。

 もしも虎之丞を怒らせて、前任の仲居のように辞めることになったら、花の地獄行きは確実なものになる。


「わ、私、地獄行きは絶対嫌ですぅ……!」


 花が叫ぶと、ぽん太は「まぁまずは落ち着こう」と咳払いをしてから窘めた。


「とにかく、今ここでわしらが慌てたところで意味はないからのぅ」

「で、でも……っ」

「そうですよ、花さん。先ほど八雲坊が言ったとおり、いつも以上に万全を期し、もてなしの準備を整えておけばよいのです」


 諭すように言われたところで、花の不安が拭えるわけではない。

 そもそも黒桜は、虎之丞を頑固ジジイと言った張本人である。


 
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