熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「ああ、やっぱりそうだ。中でも鯵がお好きで、前回は登紀子さんがお出しした鯵のなめろうに舌鼓を打っていましたね。……ああ、でも、帰り際に刺し身は食い飽きたとも漏らしています。それを登紀子さんが嗜めて、次こそは満足いくものをお出しすると約束したことで、デレデレとしておりました」


 さすが、宿帳の付喪神といったところだろう。

 黒桜は宿泊客である付喪神の情報すべてを管理し、いつでも引き出すことができるようだ。

 「顧客の情報管理は任せてください」と胸を張った黒桜に、花は目を輝かせて拍手を贈った。


「ということは、つまり、"鯵を使った刺し身ではない何か"で、おもてなしをすればいいんですね?」


 花が身を乗り出して尋ねる。


「うーむ。鯵と聞いたら、花と鏡子に出した、つくも特性まご茶漬けが思い浮かぶが……」


 対してぽん太は、短い腕を組んで眉根を寄せた。

 ぽん太の言うとおり、先日花が食べたまご茶漬けにも虎之丞の好物である鯵が使われていた。

 しかし、まご茶漬けは、鯵の刺し身がご飯の上に乗っているのが基本形である。

 いくら出汁をかけて食べるとはいえ、それで虎之丞が満足するかどうかは些か疑問を抱かずにはいられなかった。

  
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