熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
 


「……昨日も思ったけど、ここだけはやけに近代的だよね」


 思わず独りごちた花は改めて周囲を見回す。

 約十畳ほどの広さの厨房は、決して広くはないが使い勝手は良さそうだった。

 オーブンやら業務用の大型冷蔵庫なども完備されており、真ん中に置かれた調理台や洗い場もステンレス製だ。

 その他の調理道具も現世では見慣れたものばかりで、それぞれきちんと整理整頓がされた様子は、ここの主の生真面目さを表していた。

 日本情緒豊かな風格を見せるお宿に、まさかこんなに近代的な場所があるとは一体誰が想像できるだろう。

 まるでここだけが現世にあるようで、花はついぼんやりと、その場に立ち尽くしてしまった。


「……っ!」


 そのとき、火のついていた鍋から吹きこぼれた味噌汁が、ジュワッ!と威勢のよい音を鳴らして煙を噴いた。

 花は一瞬、何事かと固まったが、すぐに我にかえると音の出どころへと目を向けた。


 
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