熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします
「わ……っ、大変……!」
コトコトと鍋の蓋が暴れている。
慌てて火のそばに駆け寄って、花はコンロのツマミを回そうとした。
「勝手に触るな……っ!」
(え……っ)
けれど、既のところで声が割って入り、花は足を止めた。
直後、タタッと小気味の良い足音を鳴らして駆けてきた影がコンロの前で止まり、吹きこぼれた鍋の火を消し止めた。
「くそ……っ、せっかくのアラ汁が……。余計な邪魔が入ったせいだ」
声の主が臍を噛む。
花が味噌汁だと思っていたそれは、どうやらアラ汁だったらしい。
朝食前の花はついゴクリと喉を鳴らしたが、突然目の前に現れた"その人"──いや、"その子"を前に、言葉に迷ってしまった。